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文化・歴史/解説

夏は森の上で暮らす。フツルの山の放牧とブルィンザ

ウクライナ西部のカルパティア山地では、森の上の草地「ポロニナ」に夏のあいだ羊と牛を上げ、小屋と囲いで暮らしながら乳からチーズのブルィンザを作ってきました。季節の集落の形、1930年代の放牧の規模、国の無形文化遺産一覧への記載、2019年と2020年の地理的表示の登録をまとめます。

画像:Ukrainavi

オリュカのひとこと

ポロニナのブルィンザは、殺菌した乳から作るのでしょうか。山と工場の作り方の違いを本文で確かめられます。

森が途切れた山の上に、夏のあいだだけ人と羊と牛が暮らす場所がある。ウクライナ西部のカルパティア山地では、この高い草地を「ポロニナ」(полонина。複数形はポロニヌィ)と呼んできました。羊の乳から作る塩気のあるチーズ「ブルィンザ」は、この夏の放牧の暮らしのなかで作られてきた食べ物です。

森の上の草地、ポロニナ

『ウクライナ大百科事典』(ВУЕ)は、ポロニナを、カルパティア山地とバルカン半島の山地の上部で、丈の高い草の草地に覆われた所と説明しています。

Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所=CIUS)の「Carpathian Mountains」の項(初出1984年)によると、ウクライナのカルパティア山地では森の上に高地の草地の帯があり、亜高山帯(標高1,750〜1,850mまで)と高山帯の植物が生えています。人が森の上限を押し下げたことで草地は広がったが、放牧のしすぎで植物の種類は減った、とも書いています。

同じ項目は、恒久的な集落の上限はふつう穀物を育てられる上限と重なり、フツル地方でだけ標高1,000mを超えると説明したうえで、それより高い所に夏だけ使う季節の集落があると書いています。遠くの山の草地で羊と牛を放牧する季節です。

フツル地方の暮らしの中心だった放牧

ポロニナの放牧が最も盛んだったのは、カルパティア山地の南東部、フツルの人々が暮らす地方(フツル地方)でした。Internet Encyclopedia of Ukraineの「Hutsul region」の項(初出1989年)は、放牧と畜産がこの地方の昔からの主な生業で、それが集落の形を決めてきた、と書いています。

  • 家々が散らばり、標高1,100〜1,600m(高いものでは1,700m)の高い所にある
  • ポロニナには、遠く離れた牧夫の小屋と囲いの集まり(スタイ)がある
  • 冬の住まいと夏の住まい(ズィミウキ、リトヴィシチャ)を季節で使い分ける
  • とくにガリツィア(ハリチナ)の側で、一時的な牧夫の居住地が恒久的な集落に変わっていく

同じ項目によると、フツル地方では畑は全体の面積のわずか4%で、山の草地と採草地が33%、森が59%を占めていました。人々は何世紀にもわたって、肉や乳製品、羊毛を、ポクッチャ地方やマラムレシュ地方の穀物と交換してきた、と書いています。

項目内容資料
放牧の規模(1930年代)牧夫約5,000人、馬9,000頭、牛55,000頭(うち雌牛8,000頭)、羊とヤギ19万頭IEU「Carpathian Mountains」
対象の範囲ポロニナ・ベスキド、ホルハヌィ山地、フツル地方同上
放牧の期間2か月半〜4か月半。フツル地方では冬の囲い(ズィマルキ)で干し草がなくなるまで羊を飼って延ばす同上
チョルノホラ山群の放牧期間5か月IEU「Chornohora」(2008年更新)
出典:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS)の各項目。1930年代の数字は、この地域がカルパティア山地の牛の約4分の1、羊の約3分の2を占めていたことを示すものとして同項目に載っている。2026年9月24日確認。

「Carpathian Mountains」の項は、19世紀のフツル地方では乳牛の飼育が中心で、羊の飼育と、よく知られたフツル馬の繁殖も発達していた、とも書いています。フツルの人々そのものについては、同事典の「Hutsuls」の項が「牧畜を営むウクライナ人の高地の人々」の民族誌的な集団と説明しています。

ブルィンザは、ポロニナで作られてきた

Internet Encyclopedia of Ukraineの「Traditional foods」の項は、羊の乳から作る塩気のあるチーズを「ブーズ」または「ブルィンザ」(bryndzia)と呼び、フツル地方とブコヴィナで作られると書いています。ВУЕの「ブルィンザ」の項(2021年公開)によると、ブルィンザは塩水に漬けて熟成させるチーズの一種で、名前はルーマニア語で「チーズ」を意味する語に由来します。羊、牛、ヤギの乳から作られます。

工場で作る一般的なブルィンザは乳を加熱殺菌してから固めますが、ВУЕは、山のポロニナでは殺菌しない乳から作ると書いています。作るのはもっぱら男性の羊飼いだ、とも述べています。

ウクライナの知的財産庁(УКРНОІВІ)の2025年7月の記事は、地理的表示「フツルの羊のブルィンザ」(登録名 Гуцульська овеча бриндзя)を、殺菌していない生の羊の乳から作るチーズとして紹介しています。乳を出すのは在来種の羊で、製造の工程はすべて、いくつかの段階に分けてポロニナの上で行われる、と説明しています。

国の無形文化遺産の一覧に

ウクライナ文化情報政策省は2022年7月6日の省令第228号で、「フツルのブルィンザ」(一覧の表記は Гуцульська бриндзя)を無形文化遺産の国内一覧に加えました(保護番号044н.к.с.)。分野は「自然と宇宙にかかわる知識と実践」と「伝統工芸」、地域はザカルパッチャ州ラヒウ地区と、イヴァーノ=フランキーウシク州・チェルニウツィー州の一部です。

同じ省令には、専門家評議会の勧告も付いています。2022年9月15日までに1〜5年の保護計画を作ること。行き過ぎた商業化や、観光のための商品になってしまうことを避けつつ、地元の共同体の経済的な利益も考えた管理の計画を作ること。この要素の調査と、知ってもらうための催しを行うこと。

2025年3月24日には、文化・戦略的コミュニケーション省の省令第268号で、「チェルニウツィー州のブコヴィナのポロニナとベッサラビアのスティフヌィでの家畜の放牧の伝統」(保護番号108н.к.с.)も一覧に加わりました。一覧は、この夏のポロニナでの暮らし(ポロニンシケ・リトゥヴァンニャ)が、チェルニウツィー州のヴィジュニツャ、チェルニウツィー、ドニステル各地区、民族誌的にはブコヴィナのフツル地方などに広がっていると書いています。分野には、伝統の料理や音楽も含まれています。

ユネスコの無形文化遺産の一覧に載っているウクライナの要素は2026年9月時点で7件で、ブルィンザもポロニナの放牧も含まれていません。

オリュカのひとこと

羊のブルィンザと牛のブルィンザ、先に登録されたのはどちらでしょう。登録日と番号を下の表で見比べられます。

地理的表示の登録

食べ物としてのブルィンザには、もう一つ別の制度が関わっています。УКРНОІВІが公開している地理的表示の登録一覧には、次の二つが載っています。

登録名品目登録日登録番号
フツルの羊のブルィンザ(Гуцульська овеча бриндзя)チーズ2019年11月11日3117
フツルの牛のブルィンザ(Гуцульська коров’яча бриндза)チーズ2020年10月12日3118
出典:УКРНОІВІ「地理的表示の登録一覧」。2026年9月24日確認。

УКРНОІВІによれば、羊のブルィンザは、2019年に新しい法律のもとで地理的表示の地位を得た、ウクライナで最初の産品でした。対象の地域は、ザカルパッチャ州の中の民族誌的な「フツル地方」と、イヴァーノ=フランキーウシク州・チェルニウツィー州のいくつかの地区です。同庁は別の記事で、この二つのブルィンザはEUの基準に沿って「原産地呼称」(EUの保護原産地呼称=PDOに当たる)として登録された、と説明しています。

国の無形文化遺産の一覧が、受け継がれてきた知識と技を記録するのに対して、地理的表示は、その名前を製品に付けてよい産地と作り方を決める制度です。

ウクライナの料理の地域差や、国内一覧に載っているほかの料理はウクライナの食卓の記事に、同じフツル地方の工芸はコシウの彩色陶器に、山地の木造教会はカルパティアの木造教会にまとめています。

出典と記事の記録出典 14件 · AIの利用 · 運営体制

出典・参考資料

  1. Hutsul regionV. Kubijovyč, N. Pavliuc、初出1989年。放牧と畜産が主な生業、集落の標高と形〈スタイ、ズィミウキ、リトヴィシチャ〉、土地利用の割合、穀物との交換
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24
  2. Carpathian MountainsV. Kubijovyč、初出1984年。高地の草地の帯、夏だけの季節の集落、1930年代の放牧の規模、放牧期間、ズィマルキ、19世紀の畜産
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24
  3. Chornohora2008年更新。放牧期間5か月
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24
  4. Hutsuls初出1989年。牧畜を営む高地の民族誌的集団
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24
  5. Traditional foodsS. Stechishin。羊乳の塩気のあるチーズ budz / bryndzia
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24
  6. Полонини定義
    発行:Велика українська енциклопедія 確認日:2026-09-24
  7. БринзаІ. В. Скульська, О. Й. Цісарик、2021年11月8日公開。語源、塩水で熟成するチーズ、工場での殺菌、ポロニナでは殺菌しない乳、男性の羊飼い
    発行:Велика українська енциклопедія 確認日:2026-09-24
  8. Наказ МКІП від 06.07.2022 № 228044.нкс「Гуцульська бриндзя」の分野・地域、専門家評議会の勧告
    発行:Міністерство культури та інформаційної політики України 確認日:2026-09-24
  9. Наказ МКСК від 24.03.2025 № 268108н.к.с.「Традиція випасання худоби на буковинських полонинах та бессарабських стигнах Чернівецької області」の分野・地域
    発行:Міністерство культури та стратегічних комунікацій України 確認日:2026-09-24
  10. Національний перелік елементів нематеріальної культурної спадщини України2026年6月掲載の版。044н.к.с.・108н.к.с.の記載
    発行:Міністерство культури України 確認日:2026-09-24
  11. Реєстр географічних зазначень3117「ГУЦУЛЬСЬКА ОВЕЧА БРИНДЗЯ」2019年11月11日、3118「ГУЦУЛЬСЬКА КОРОВ’ЯЧА БРИНДЗА」2020年10月12日
    発行:УКРНОІВІ 確認日:2026-09-24
  12. Як івано-франківська бринза стала “гуцульською овечою бриндзьою”2025年7月11日。2019年に最初の地理的表示、生の羊乳、在来種の羊、工程はポロニナで、対象地域
    発行:УКРНОІВІ 確認日:2026-09-24
  13. Українські географічні зазначення: підтримуємо регіони – розвиваємо унікальне2025年6月3日。二つのブルィンザはPDOに当たる原産地呼称として登録
    発行:УКРНОІВІ 確認日:2026-09-24
  14. Ukraine: Elements on the Lists of Intangible Cultural Heritageウクライナの7件
    発行:UNESCO 確認日:2026-09-24

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