日本の学校に通いながら、ウクライナの6科目だけを学ぶ仕組み
日本の学校に通う子どもは、ウクライナの学校でウクライナ語・文学・歴史など6科目だけを学び、ほかの科目は日本の学校の成績で読み替えてもらう道があります。ウクライナ教育科学省が示す四つの進み方、2025年に決まった成績の認め方、「全ウクライナ・オンライン学校」が学校ではなく教材のサイトであることを説明します。
日本の学校に通いながら、夕方や夜にウクライナの学校のオンライン授業にも出る。ウクライナから日本に来た子どもの中には、二つの学校を同時に続けている子がいます。笹川平和財団が2022年10月から2023年2月にかけて行った調査では、日本財団が生活費などを支援しているウクライナ避難民の家庭のうち、15〜18歳の子どもがいる家庭への質問票(有効回答27件)で、半数の14人がウクライナの学校教育をオンラインで受けていると答えました。調査で話を聞いた3市の国際交流センターなどからは、朝から夜まで授業を受けることによる疲れを指摘する声が出ています。
ウクライナ教育科学省は、国外にいる子どもがウクライナの教育を続けるための仕組みを、専用の情報サイト(ukrainian.studies.mon.gov.ua)にまとめています。この記事は、そのサイトと、ウクライナの完全普通中等教育法、2025年の内閣決定第734号を2026年9月に確認した内容にもとづいています。どの進み方が子どもに合うかは、この記事では判断しません。在籍するウクライナの学校と、日本の学校・教育委員会に相談してください。
「全ウクライナ・オンライン学校」は、教材のサイト
まず名前の似た二つを分けておきます。「全ウクライナ・オンライン学校」(Всеукраїнська школа онлайн)は、名前に「学校」とありますが、子どもが入学して籍を置く学校ではありません。このサイト自身は、1〜11年生のデジタル学習・混合学習と、教員の指導の支援のためのプラットフォームだと説明しています。ウクライナ語・文学、ウクライナ史、数学、生物、物理、化学など23教科のデジタル教材があり、授業をオンラインで受けることにも、学校で抜けた単元を補うことにも使えます。
同じ説明によれば、このプラットフォームは市民団体「オスヴィトリヤ」(Освіторія)が、デジタル変革省、教育科学省、国の機関であるウクライナ教育発展研究所の依頼で作ったもので、スイスの支援を受けています。教材は無料で使えます。一方、ウクライナの学年の成績や修了証を受けるのは、ウクライナの学校に在籍してのことです。
ウクライナの学校に籍を置く形
完全普通中等教育法第4条第3項は、学校教育を受ける形として、通学(昼間)のほか、遠隔、ネットワーク、エクスターン(学校に通わず試験で課程を修める形)、家庭(ホームスクール)などを挙げています。国外にいる子どもがウクライナの学校に籍を置くときは、こうした形のどれかを使うことになります。同法には、ウクライナ国民が国外で得た学習の成果を、内閣が定める手続きで認める、という規定が2025年2月26日の改正で加わっています(第6条第6項)。
ウクライナの学校制度そのもの(4年・5年・3年の三段階、入学年齢、2027年に始まる3年制の最終段階)は、ウクライナの12年制の学校の記事で扱っています。
教育科学省が示す四つの進み方
教育科学省の情報サイトは、国外にいる家族が選べる進み方を四つのシナリオとして示しています。
| シナリオ | 内容 | 結果として得られるもの(サイトの説明) |
|---|---|---|
| 1. 現地の学校+オンライン | 現地の学校に通い、並行してウクライナの学校で「ウクライナ研究の科目」だけをオンラインで学ぶ | ウクライナ式の修了証と、現地の学校の書類の二つ |
| 2. 現地の学校+週末の学校 | 現地の学校に通い、ウクライナ研究の科目を国外の土曜・日曜のウクライナ学校で学ぶ | 同上(教育科学省と外務省の委員会の確認を受けた学校の場合) |
| 3. 現地の学校だけ | 現地の学校だけで学び、言葉や文化は別の形で保つ | ウクライナの教育制度に戻りやすくする |
| 4. ウクライナの課程をすべて遠隔で | ウクライナの学校の全課程を遠隔で受ける | 課程を終えたあとのウクライナ式の修了証 |
サイトは、この施策が「毎日5〜8時間のオンライン授業」を求めるものだという受け止めは誤りで、四つのシナリオから選べるものだ、と説明しています。
ウクライナ研究の6科目
シナリオ1と2の中心にあるのが「ウクライナ研究の科目」(українознавчий компонент)です。教育科学省のサイトは、現地の学校で学んでいない科目だけを学ぶ短縮版のプログラムで、二重の負担から子どもを解放するのが目的だと説明しています。学ぶのは次の6科目です。
- ウクライナ語
- ウクライナ文学
- ウクライナの歴史
- ウクライナの地理
- 法の基礎
- ウクライナの防衛
ほかの科目は、現地の学校、つまり日本の学校の成績を、ウクライナの学校が教育科学省の「読み替えの尺度」を使ってウクライナの評価に置き換えます。同じ科目を二度学ばずに済む、というのがサイトの説明です。オンラインで学ぶ場合の申し込みは、教育の情報システム「АІКОМ」の市民向けの窓口(citizen.aikom.gov.ua)からだと、サイトは案内しています。
2025年に決まった、成績の認め方
国外で学んだ成果の認め方は、内閣が2025年6月23日に決めた決定第734号の手続きに定められています。要点は次のとおりです。
- 対象は、ウクライナ国民が国外の教育機関で得た学習の成果。ただし、最高会議が侵略国・占領国と認めた国は除く
- 認めるのは、子どもが在籍するウクライナの学校。保護者が自由形式の申請書に、成果を示す書類の写しをつけて出す。紙で直接、またはメールで出せる
- 国外の学校(正規の教育)で得た成績は、追加の評価なしに、ウクライナの評価の尺度に読み替えて認める
- 教育科学省と外務省がつくる委員会の確認を受けた週末学校などで学んだウクライナ研究の科目は、追加の評価なしに認める
- 申請の審査は、その学年の学期の評価が終わるまでに終える
書類が手元にない場合や、確認を受けていない団体で学んだ場合は、ウクライナの学校で通常の評価を受けることになります(手続き第6項)。日本の学校の成績を認めてもらうには、通知表などの書類をとっておくことが前提になります。
「全部オンライン」を選ぶ前に
シナリオ4について、教育科学省のサイトは「滞在国が学校への通学を義務づけていない場合」に選べると書き、国ごとの就学義務についての外務省の書簡(2025年8月14日付)を参照先に挙げています。
日本では、外国籍の子どもの保護者に、学校教育法による就学の義務は課されていません(文部科学省「外国人の子供の就学促進及び就学状況の把握等に関する指針」2020年7月1日)。そのうえで文部科学省は、外国籍の子どもも公立の小中学校に入れることを案内するよう、市町村の教育委員会に求めています。日本の学校に入る手続きは日本の学校に入る前の準備の記事にまとめています。
笹川平和財団の調査は、オンライン授業だけを受けている生徒について、同じ年代の子どもと実際に交流する機会がないことを心配する声があったとも記しています。
日本の学校とどう両立させるか
ウクライナから来た子どもの受け入れについて文部科学事務次官が出した2022年4月18日の通知は、日本語指導や心身の状態への配慮を学校に求めていますが、ウクライナの学校のオンライン授業との両立については書いていません。両立のしかたは、家族と日本の学校が個別に話し合うことになります。
話し合うときに材料になるのは、ウクライナの学校の時間割(どの科目を、週に何時間、何時から受けるか)と、日本とウクライナの時差です。シナリオ1のように科目を絞れば、ウクライナ側の授業時間は全課程を受けるより少なくなります。
大学入試を考えるなら
ウクライナの大学に進むには、国家マルチ科目テスト(NMT)を受けます。ウクライナ教育質評価センターは、2026年のNMTの国外の臨時会場を32か国54都市に設けると案内しましたが、本試験を行う国の一覧に日本は含まれていませんでした。試験の仕組みはウクライナの12年制の学校の記事にあります。
相談の前に確かめること
- 子どもがいま、ウクライナのどの学校に、どの形(遠隔、家庭、エクスターンなど)で籍を置いているか
- 全課程を続けるか、ウクライナ研究の6科目に絞るか(在籍するウクライナの学校)
- 日本の学校の成績を読み替えてもらうために、どの書類が要るか(在籍するウクライナの学校)
- ウクライナの授業の時間帯と、日本の学校の時間割がどう重なるか(日本の学校)
- 日本の学校で日本語指導を受けられるか(教育委員会)
教育科学省のサイトは、問い合わせ先として政府のコンタクトセンターの番号1545(音声案内で5を選ぶ)を案内しています。ここに書いた仕組みは2026年9月に確認したもので、ウクライナの教育制度は戒厳令のもとで改められることが多いため、手続きの前に最新の案内を確かめてください。
出典・参考資料
- Українська освіта для дітей за кордоном — політика «Діти за кордоном»(トップページ:四つのシナリオ、結果として得られる書類、「毎日5〜8時間」ではないという説明、外務省書簡2025年8月14日付の参照、問い合わせ先1545)
発行:Міністерство освіти і науки України(ウクライナ教育科学省) 確認日:2026-09-24 - Батькам(保護者向け:ウクライナ研究の科目の目的、6科目、二つの学び方、読み替えの尺度、申し込み先 citizen.aikom.gov.ua)
発行:Міністерство освіти і науки України(ウクライナ教育科学省) 確認日:2026-09-24 - Про проєкт(全ウクライナ・オンライン学校:プラットフォームであること、1〜11年生、23教科、作成主体と依頼元、スイスの支援)
発行:Всеукраїнська школа онлайн 確認日:2026-09-24 - Закон України «Про повну загальну середню освіту» від 16.01.2020 № 463-IX(第4条第3項の教育を受ける形、第6条第6項の国外の学習成果の承認。2026年7月31日時点の版)
発行:Верховна Рада України(法令データベース) 確認日:2026-09-24 - Постанова Кабінету Міністрів України від 23.06.2025 № 734 «Про затвердження Порядку визнання на рівнях повної загальної середньої освіти результатів навчання, здобутих шляхом формальної та/або неформальної освіти у суб’єктів освітньої діяльності, розміщених за кордоном»(第1・4・5・6・7項。2025年11月8日時点の版)
発行:Верховна Рада України(法令データベース) 確認日:2026-09-24 - НМТ за кордоном(2026年:32か国54都市、本試験の実施国一覧)
発行:Український центр оцінювання якості освіти(ウクライナ教育質評価センター) 確認日:2026-09-24 - ウクライナ避難民の教育分野に関する状況・支援調査(日本国内調査)報告書要約(2023年3月2日。調査期間、27人中14人がオンラインで受講、3市の関係者の指摘)
発行:笹川平和財団 ウクライナタスクフォース 確認日:2026-09-24 - 外国人の子供の就学促進及び就学状況の把握等に関する指針(2020年7月1日。就学義務が課されていないこと、入学が可能であることの案内)
発行:文部科学省 確認日:2026-09-24 - ウクライナからの避難民の児童生徒等の教育機会の確保について(通知)(2022年4月18日)
発行:文部科学省 確認日:2026-09-24
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