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ウクライナの人・文化・社会・未来を、日本と世界につなぐ

Ukrainavi Ukrainavi

日本とのつながり/解説

みんぱくが所蔵するウクライナの刺繍と衣服は、ソ連の時代に来た

大阪の国立民族学博物館(みんぱく)の標本資料目録を「ウクライナ」で引くと120点が出てきます。刺繍の入ったシャツ、帯、タオル、エプロン。119点の地域欄は「ソ連 ウクライナ」で、104点は1981年度にまとめて受け入れられました。目録の外にあるバンドゥーラやチョルノービリの勲章も含め、データベースの記録をたどります。

大阪府吹田市の万博記念公園にある国立民族学博物館(みんぱく)は、所蔵する標本資料の基本情報を「標本資料目録データベース」としてインターネットで公開しています。2026年9月にこのデータベースを「ウクライナ」というキーワードで検索すると、120点が出てきます。刺繍の入ったシャツ、帯、スカーフ、タオル、枕カバー、エプロン。ほとんどが布です。

そして120点のうち119点の地域欄には、「ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連) ウクライナ」と書かれています。データベースの説明によれば、地域欄の国名や地域名は、原則として資料をみんぱくが受け入れた時点の名称です。

120点は、いつ来たか

一点ずつ受入年度を見ると、120点は四つのまとまりに分かれます。

受入年度点数主な資料
1981年度104点女性用エプロン9、女性用帯7、枕カバー7、女性用シャツ6、女性用スカーフ5、女性用胸飾り5、女性用ベスト5、男性用帯4、テーブル掛け4、タオル類9(うち「偶像用 タオル」3、「タオル(結婚式用)」1)など。手斧2点、聖水用容器1点も含む
1989年度2点テーブルクロス、壁掛け(地域・民族とも「推定」)
1990年度13点女性用の上衣、スカート、寝間着2、ベスト、たすき、肩掛け5、ハンカチ、刺繍布
2005年度1点人形(女性)。地域欄は「ウクライナ」
国立民族学博物館「標本資料目録データベース」をキーワード「ウクライナ」で検索した120件の受入年度と標本名(2026年9月24日確認)。1981年度の104点は標本番号 H0088425〜H0088528、1990年度の13点は H0172355〜H0172367 と連続している。

1981年度、1989年度、1990年度は、いずれもウクライナが1991年に独立する前です。所蔵の中心は、ソ連の時代にまとめて入った一群の布と衣服だということになります。1981年度の104点の中には、刺繍を施した衣類や布のほかに、手斧、かいば袋、聖水を入れる容器のような道具も少し含まれています。

現地名の欄に並ぶ二つの言葉

衣服は、みんぱくの別のデータベース「衣服・アクセサリーデータベース」にも登録されていて、そこには「現地名」の欄があります。1981年度の資料を見ると、たとえば女性用スカーフ(H0088440)は「Хустка – платок женский」、女性用帯(H0088427)は「Попружка – пояс женский」、男性用帯(H0088494)は「Окрайка – пояс мужской」と記録され、言語の欄はいずれも「ロシア語」です。ハイフンの後ろは「女性用のスカーフ」「女性用の帯」「男性用の帯」を意味するロシア語の説明になっています。

女性用エプロンとして登録された一枚(H0088503)の現地名は「Горбатка – юбка женская」です。後ろの語はロシア語で「女性用スカート」。前の語について、カナダのアルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所(CIUS)が発行する『Internet Encyclopedia of Ukraine』(IEU)の「Dress(衣服)」の項は、ポディリャ地方の女性が身につけた「長方形の織物の巻きスカート(horbatka)」として説明しています。みんぱくの記録では、この資料の形態は「腰衣」、大きさは164×93センチの長方形で、赤・黒などの縞の布です。

これらの資料がどこで、誰から、どのように集められたかは、公開されているデータベースには書かれていません。

タオルと聖像

1981年度のまとまりには、タオルが9点あります。うち3点の標本名は「偶像用 タオル」、1点は「タオル(結婚式用)」です。IEUの「Embroidery(刺繍)」の項(紙の事典の第1巻、1984年刊が初出)は、刺繍したルシュヌィク(タオル)が民間の儀礼、とくに婚礼と聖像(イコン)の飾りに使われたと書いています。同じ項は、ウクライナの刺繍の文様を、北のポリッシャやカルパチア山地のフツル地方に残る厳格な幾何学文様、ドニプロ川沿いの中部・東部に多い花の文様、そしてヴォルィーニやガリツィア中部、ポルタヴァ地方などに見られる、花を幾何学的に描く文様の三つに分けています。

みんぱくの資料が具体的にどの地方のものかは、目録からはわかりません。地域ごとの刺繍の違いについては、ヴィシヴァンカの記事で扱っています。

ピサンカは目録にない

ウクライナの工芸としてもう一つよく知られるピサンカは、2026年9月の時点で、この目録で地域や民族が「ウクライナ」とされている資料の中にはありません。みんぱくの目録には標本名「復活祭装飾用 卵」の資料が515点ありますが、うち400点はルーマニアのモルドバ地方のもので、ほかはチェコ、ポーランド、オーストリア、ブルガリアなど。地域が「ソ連」の3点は、民族欄が「ロシア」です。

目録の外にある、ウクライナにかかわる資料

みんぱくには、資料ごとに詳しい情報を記した「標本資料詳細情報データベース」もあります。こちらを「ウクライナ」で検索すると4件が出てきます。そのうち3件は、目録の検索では「ウクライナ」の120点に入っていませんでした。

  • バンドゥーラ(H0281515、2018年度受入) 詳細情報では、使用地が「ソビエト社会主義共和国 Ukraina共和国(推定)」、製作地が「ソビエト社会主義共和国(推定)」で、楽器の裏に手書きで「MADE IN USSR」とあります。楽器を集めた大西尚明(1923〜2004年)のコレクションの一点です。一方、目録ではこの楽器の地域欄は「ロシア連邦(推定)<製作>」になっています。同じ資料が、二つのデータベースで違う国の名前で記録されています。
  • チョルノービリ原発事故の救援者に与えられた勲章(H0275254、2013年度受入) 2013年にカザフスタンのアスタナで収集されたもので、使用地は「ウクライナ」、使用民族は「カザフ」、用途は「ソ連時代、チェルノブイリ原発事故の救援活動に携わった者に与えられた勲章」と記されています。目録の地域欄は「カザフスタン共和国」です。
  • カレンダー(H0280019) 2016年4月8日に米国で収集された名刺大のカレンダーで、使用民族は「ウクライナ系移民(推定)」、製作地はオデーサ、製作年は2004年。裏に救急の電話番号の一覧があり、ウクライナ語で書かれています。
  • 人形(H0233843、2005年度受入) 目録の120点に含まれる唯一の独立後の受入資料で、田中千代のコレクションの一点。詳細情報の使用地は「ソビエト社会主義共和国連邦 Ukraine共和国」、用途欄には「青いエプロンを着用」とあります。

どの言葉で、どちらのデータベースを引くかで、出てくる資料が変わります。「ウクライナ」で目録を引いただけでは、ロシア連邦やカザフスタンの資料として記録された、ウクライナにかかわる品物にはたどり着けません。

展示と研究

みんぱくの「展示情報データベース」は、本館展示、特別展、企画展、コレクション展示、新着資料展示の記録を収めています。2026年9月の時点で「ウクライナ」を検索すると、該当する展示はありません。標本資料目録のページも、収録しているすべての資料が展示場に出ているわけではないと断っています。所蔵資料を実際に見られるかどうかは、みんぱくに問い合わせる必要があります。

研究の場では動きがあります。2023年2月24日には、スラブ・ユーラシア研究センターとみんぱくの東ユーラシア研究拠点の共催で、特別セミナー「マイダン革命以降におけるウクライナ文化の展開」が立命館大学衣笠キャンパスで開かれ、みんぱくの赤尾光春氏が、ロシアとの戦争の中のウクライナのヒップホップと民俗文化について報告しました。赤尾氏は『月刊みんぱく』2023年6月号でも、キーウとオデーサの中間にある町ウーマニ(同誌の表記はウマニ)で続くユダヤ教の聖地巡礼について書いています。

収蔵庫の布は、1981年にソ連の一地域の民族資料として入りました。そのとき付けられた地域名や言葉の記録は、今もデータベースに残っています。記録そのものが、どの時代にどう見られていたかを伝える資料になっています。

出典・参考資料

  1. 標本資料目録データベース(キーワード「ウクライナ」の検索結果120件、各資料の地域・民族・受入年度。「復活祭装飾用 卵」の検索結果515件。地域欄は受入時の名称とする注記)
    発行:国立民族学博物館 確認日:2026-09-24
  2. 標本資料詳細情報データベース(キーワード「ウクライナ」の検索結果4件:H0233843、H0275254、H0280019、H0281515の使用地・製作地・収集地・受入年度・用途)
    発行:国立民族学博物館 確認日:2026-09-24
  3. 衣服・アクセサリーデータベース(H0088427、H0088440、H0088494、H0088503などの現地名・形態・キャプション)
    発行:国立民族学博物館 確認日:2026-09-24
  4. 展示情報データベース(キーワード「ウクライナ」で該当なし)
    発行:国立民族学博物館 確認日:2026-09-24
  5. ウクライナ文化に関する特別セミナー「マイダン革命以降におけるウクライナ文化の展開」(2023年2月24日、立命館大学衣笠キャンパス、共催・プログラム)
    発行:国立民族学博物館 確認日:2026-09-24
  6. 『月刊みんぱく』2023年6月号(赤尾光春「東ユーラシア研究拠点 特任助教」によるウマニの巡礼についてのエッセイ、14〜15ページ)
    発行:国立民族学博物館 確認日:2026-09-24
  7. アクセス(所在地 大阪府吹田市千里万博公園10-1)
    発行:国立民族学博物館 確認日:2026-09-24
  8. Embroidery(紙版は1984年刊行の第1巻が初出。執筆:Damian Horniatkevych, Lidiia Nenadkevych。ルシュヌィクの婚礼・聖像での使用、文様の三地域区分)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所=CIUS) 確認日:2026-09-24
  9. Dress(紙版は1984年刊行の第1巻が初出。執筆:Lidiia Burachynska。ポディリャの horbatka)
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24

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