発電・送電・配電・小売。ウクライナの電気が家に届くまで
ウクライナの電気は、発電、送電、配電、小売の四つの事業者を通って家庭に届きます。2017年の電力市場法がこの分け方を定め、2019年7月1日から新しい卸市場の取引が始まりました。国営のウクルエネルゴ、州ごとの配電会社、家庭と契約する小売事業者、料金を決める規制機関の役割をまとめました。
オリュカのひとこと
送電の会社は、なぜ電気を売ってはいけないのでしょう。運ぶ仕事と売る仕事を分けた法律を最初の表で確かめられます。
ウクライナで家の電灯がつくまでには、発電所から家庭まで、役割の違う四つの事業者がかかわっています。電気をつくる「発電」、高い電圧で国じゅうへ運ぶ「送電」、地域の中で家や店まで配る「配電」、そして利用者と契約して電気を売る「小売」です。この分け方を定めているのが、2017年4月13日に採択された「電力市場法」(Закон «Про ринок електричної енергії»、第2019-VIII号)です。
以下は、この法律と関連する規則、規制機関の年次報告を2026年9月に読んだ内容です。攻撃による発電所や変電所の被害については、発電所が狙われ続ける国で、電気を小さく分けてつくるで扱っています。
法律が分けた四つの役割
電力市場法は、送電を「送電事業者の電線網を通じて、発電所から配電網の接続点や大口の需要家の設備まで電気を運ぶこと」、配電を「配電事業者の電線網を通じて電気を運ぶこと」と定義し、どちらも電気の販売(小売)を含まないと書いています。運ぶ仕事と売る仕事を、法律の上で切り離しているのが特徴です。
| 役割 | 担い手 | 法律の主な定め |
|---|---|---|
| 発電 | 原子力発電所を運営するエネルゴアトム、水力のウクルヒドロエネルゴ、火力・再生可能エネルギーの事業者など | 発電した電気を卸市場で売る |
| 送電 | 送電事業者(ОСП)。ウクライナでは国営のウクルエネルゴ(НЕК «Укренерго») | 国が100%を持つ会社に限る。発電・配電・小売をしてはならない |
| 配電 | 配電事業者(ОСР)。多くは州ごとの電力会社 | 電気の小売・発電・送電をしてはならない(例外あり) |
| 小売 | 電気の小売事業者(електропостачальник)。家庭向けには「ユニバーサル・サービス事業者」がある | 利用者と供給契約を結んで電気を売る |
送電:国じゅうの幹線を一社が受け持つ
電力市場法第32条は、送電事業者を「垂直統合された事業者の一部ではない法人」とし、発電、配電、電気の販売をしてはならないと定めています。同じ条文は、送電事業者になれるのは送電網の所有者か、国が株式の100%を持つ会社に限るとしています。
第33条が挙げる送電事業者の仕事は、送電網の維持と拡張だけではありません。ウクライナの電力系統全体の運用(給電指令)、発電と消費を毎時つり合わせる「需給調整(バランシング)」、市場の参加者が出す1日ごとの発電・消費の計画の受け付け、国境をまたぐ送電容量の割り当ても、送電事業者の仕事です。
ウクルエネルゴは、ヨーロッパの送電事業者の団体ENTSO-Eに2024年1月1日から正会員として加わっています(ENTSO-Eの会員一覧による)。ウクライナの電力網がヨーロッパの電力網と同期したのは2022年3月で、その後の電力の輸出入については上で挙げた記事にあります。
規制機関の年次報告(2025年)によれば、2025年に発電所から送り出された電気のうち63%は送電網に、30%は配電網に直接入り、7%は発電所の中で使われました。規制機関は、送電網への送り出しが多いことを「集中型の発電の仕組みが続いている」ことの表れとし、配電網への送り出しが3割に達していることを、家庭の屋根の太陽光などの分散型の電源が増えていることの表れとしています。
配電:州ごとの電力会社
配電事業者は、変電所から先の電線網を受け持ち、家庭や商店への電気の配達、新しい建物の電線網への接続、電力量計の管理と検針のデータ(商業計量)をになっています(電力市場法第46条)。多くは州ごとの会社で、ウクライナでは「オブルエネルゴ」(обленерго、州のエネルギー会社の略)と呼ばれています。エネルギー省の日々の発表でも、停電の復旧に当たる会社をこの呼び名で書いています。
電力市場法第47条は、配電事業者が電気を小売することを禁じました。この条文は法律の公布(2017年6月10日)から18か月後に効力を持つと定められ、電線網を受け持つ会社と、電気を売る会社は別の会社でなければならなくなりました。配電事業者は同じ条文で、発電や小売をする会社の株を持つことも禁じられています(この部分は公布から36か月後に効力)。
停電の予定や、事故による停電の情報を出すのも配電事業者です。小売市場の規則は、計画的な停電を少なくとも5日前に自社のサイトに載せること、100を超える利用者が1時間を超えて止まる事故停電は、発生から6時間以内に地域と復旧の見込みを載せることを求めています。2026年9月23日のエネルギー省の発表も、電気の供給の変化は「各地の配電事業者の公式の情報源で」知るよう呼びかけています。
小売:家庭が契約する相手
電気を売る小売事業者は、規制機関の年次報告によれば、2025年に1,410社が免許を持ち、そのうち市場で実際に販売していたのは356社でした。利用者は小売事業者を選び直すことができ、規制機関は、切り替えの手続きの92%が1日以内に終わったとしています。
家庭と小規模の事業者(契約電力50キロワットまで)には、「ユニバーサル・サービス事業者」(постачальник універсальних послуг)という特別な小売事業者があります。電力市場法第63条は、この事業者が受け持つ地域の家庭との契約を断れないと定めています。事業者は内閣が入札で選びます。家庭向けの電気の値段は、内閣の決定による「固定価格」で、2026年9月時点で1キロワット時あたり4.32フリヴニャ(付加価値税込み)です。
もう一つ、「最後のよりどころの事業者」(постачальник «останньої надії»)もあります。契約していた小売事業者が倒産したり免許を失ったりしたとき、利用者に一時的に電気を売る事業者で、期間は法律で限られています(第64条)。内閣の決定によれば、この役割は国営の「ウクルインテルエネルゴ」が担っています。
オリュカのひとこと
前日市場と当日市場は、何が違うのでしょう。卸市場の四つの分け方をこの節で見比べられます。
卸市場:2019年7月1日から
発電事業者と小売事業者のあいだの売り買いは、卸市場で行われます。電力市場法は、市場の中心となる取引の条文を2019年7月1日から効力を持つと定めました。家庭向けの固定価格の仕組みを定めた内閣の決定(2019年6月5日、第483号)も、同じ日に効力を持っています。卸市場は次の四つに分かれています(第4条、定義の条文)。
- 相対取引:発電事業者と小売事業者などが、市場の外で直接結ぶ売買の契約
- 前日市場(ринок «на добу наперед»):翌日の1時間ごとの電気を、前日に売り買いする
- 当日市場(внутрішньодобовий ринок):前日市場のあと、当日まで続けて売り買いする
- 需給調整市場(балансуючий ринок):送電事業者が、発電と消費のずれを埋めるために電気を買ったり売ったりする
前日市場と当日市場は、国の「市場運営者」(Оператор ринку)が運営します。規制機関は市場の価格に上限を設けていて、2025年7月には、需要の多い時間帯の上限を1メガワット時あたり1万5,000フリヴニャに引き上げました。規制機関は、輸入した電気と同じ水準の値段にして、商業的な輸入を最大限に呼び込むためだと説明しています。
再生可能エネルギーの電気を固定価格で買い取る「保証買取者」(Гарантований покупець)も、法律が定めた市場の参加者です。電力市場法は、固定価格(「グリーン料金」)が適用される発電事業者から電気を買う義務を負う事業者と定義しています。
料金を決める規制機関
送電と配電は、一つの地域に電線網が一つしかない「自然独占」の事業です。その料金(託送料金)を決め、電力会社に免許を出すのが、「エネルギー・公益事業国家規制委員会」(НКРЕКП)です。2016年9月22日の法律(第1540-VIII号)は、この委員会を、内閣がつくる特別な地位の常設の中央行政機関で、合議制の機関と定めています。
家庭の電気代の中身は、請求書で分けて示されます。小売市場の規則は、請求書と利用者のオンラインの個人ページに、電気そのものの値段、送電料金、配電料金、小売事業者のサービス料金、税などを分けて書くよう求めています。規制機関によれば、2026年1月1日からは、送電事業者が再生可能エネルギーの買い取りを支えるための費用を、請求書の上で別に示すことになりました。
国境をまたぐ電気の売り買い
送電網がヨーロッパとつながったことで、国境を越える送電容量の割り当ても変わりつつあります。規制機関の年次報告によれば、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアとの国境で、ヨーロッパの送電容量の割り当てを担う共同の仕組み(JAO)を通じた1か月単位の入札が、2025年12月15日に初めて行われました。規制機関は、EUとの国境での当日の入札を2026年に始める準備も進めたとしています。
同じ報告は、2025年6月から9月に輸出が多く、9月にはENTSO-Eとの同期以来で最も多い64万4,000メガワット時を輸出した一方、11月の大規模な攻撃のあと11月11日に輸出を止め、12月は64万メガワット時の輸入で年を終えたと書いています。発電、送電、配電、小売を分けた仕組みは、攻撃を受け続ける中でも、電気の流れと代金の流れを追う骨組みになっています。
出典と記事の記録
出典・参考資料
- Закон України «Про ринок електричної енергії» від 13.04.2017 № 2019-VIII定義〈送電・配電・保証買取者・小規模の非家庭利用者50kW〉、第4条、第32条、第33条、第46条、第47条、第63条、第64条、第XVII章第1項の施行日、公布日
発行:ウクライナ最高会議(法令データベース) 確認日:2026-09-24 - Закон України «Про Національну комісію, що здійснює державне регулювання у сферах енергетики та комунальних послуг» від 22.09.2016 № 1540-VIII規制機関の地位と権限
発行:ウクライナ最高会議(法令データベース) 確認日:2026-09-24 - Постанова КМУ від 05.06.2019 № 4832019年7月1日の施行、家庭向け固定価格、最後のよりどころの事業者の費用
発行:ウクライナ内閣(法令データベース) 確認日:2026-09-24 - Правила роздрібного ринку електричної енергіїпостанова НКРЕКП від 14.03.2018 № 312。第9.4.3〜9.4.4項の停電の告知、第9.6.1項の請求書の記載
発行:エネルギー・公益事業国家規制委員会(法令データベース) 確認日:2026-09-24 - Брошура до Річного звіту НКРЕКП за 2025 рік送り出しの63%・30%・7%、小売事業者1,410社・356社、切り替えの92%、価格上限1万5,000フリヴニャ、JAOの入札2025年12月15日、輸出入、2026年1月1日からの請求書の表示
発行:エネルギー・公益事業国家規制委員会 確認日:2026-09-24 - Bulletin to the NEURC Annual Report 2025英語版。同上の数字
発行:エネルギー・公益事業国家規制委員会 確認日:2026-09-24 - ENTSO-E MembersUkrenergo, the Ukrainian TSO, became Member of ENTSO-E as from 1 January 2024
発行:ENTSO-E 確認日:2026-09-24 - Оперативна ситуація в енергосистемі України станом на ранок 23 вересня配電事業者の公式の情報源で確認するよう呼びかけ
発行:ウクライナ・エネルギー省 確認日:2026-09-24 - Оперативна ситуація в енергосистемі України станом на ранок 15 січня「обленерго」の呼び名
発行:ウクライナ・エネルギー省 確認日:2026-09-24
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