本文へ移動

ウクライナの人・文化・社会・未来を、日本と世界につなぐ

Ukrainavi Ukrainavi

日本とのつながり/解説

大鵬の父から獅司、安青錦まで。相撲協会の記録に見るウクライナ

昭和の横綱・大鵬の父は、ウクライナの村に生まれた人でした。2026年9月場所の時点で、ウクライナを出身地とする力士は前頭の獅司と大関の安青錦の二人です。日本相撲協会の記録と、大鵬の父をサハリンの公文書からたどった研究をもとに、3人の記録を並べます。

イメージ画像

オリュカのひとこと

相撲協会の記録には、どんなことが載っているのでしょう。最初の見出しの表で見比べられます。

日本相撲協会の公式サイトで「ウクライナ」を出身地に持つ力士を探すと、2026年9月場所の千秋楽時点で二人の名前が出てきます。雷部屋の前頭・獅司(しし)と、安治川部屋の大関・安青錦(あおにしき)です。さらにさかのぼると、昭和の横綱・大鵬の父が、ウクライナの村に生まれた人でした。

以下は、日本相撲協会の公式サイトの力士・歴代横綱のデータ、大鵬の公式サイト(大鵬企画)、内閣府の国民栄誉賞の受賞者一覧、函館日ロ交流史研究会の会報に載った研究者の論考、国立国会図書館の書誌によります(2026年9月時点)。取組や相撲ぶりの評価はしません。

3人の記録を並べる

日本相撲協会の公式サイトのデータを並べます。「出身地」は協会の表記のままです。

項目大鵬 幸喜獅司 大安青錦 新大
本名納谷 幸喜ソコロフスキー・セルギイヤブグシシン・ダニーロ
生年月日1940年(昭和15年)5月29日1997年(平成9年)1月16日2004年(平成16年)3月23日
協会の「出身地」北海道川上郡弟子屈町ウクライナ・ザポリジャウクライナ・ヴィンニツャ
所属部屋二所ノ関雷安治川
初土俵1956年9月場所2020年3月場所2023年9月場所
新十両1959年5月場所2023年7月場所2024年11月場所
新入幕1960年1月場所2024年11月場所2025年3月場所
最高位横綱(第48代、1961年11月場所から)前頭九枚目大関(大関昇進は2026年1月場所)
幕内優勝32回0回(十両優勝1回)3回
日本相撲協会公式サイトの力士プロフィールと歴代横綱のページによる。獅司・安青錦は2026年9月場所の千秋楽時点の記録(2026年9月27日に確認)。場所の年は協会の元号の表記を西暦に直した。

十両以上の力士は「関取」と呼ばれます。協会の記録では、獅司が十両に上がったのは2023年7月場所で、安青錦は2024年11月場所です。

協会の「出身地」は何を書いているのか

協会の「出身地」と、生まれた場所は同じとは限りません。大鵬について、大鵬の公式サイトは「樺太敷香郡敷香町出身で、北海道川上郡弟子屈町で育った」と書いています。協会は、育った弟子屈町を出身地にしています。

獅司の協会の出身地は「ウクライナ・ザポリジャ」です。スポーツ紙の新十両の記事(2023年5月31日)は、「ザポリージャ州メリトポリ市出身」と書いています。ザポリッジャ州の州都ザポリッジャと、同じ州のメリトポリは別の町です。

  1. オリュカ

    「ウクライナ出身の初めての関取」は、どういう意味で言われたのかな。

  2. スウネ

    報道の言い方と大鵬の記録がどう読めるかは、この見出しの下にあるよ。

  3. タブリ

    協会の「出身地」が何を書いているかは、ひとつ上の見出しに戻れば読めるよ。

「ウクライナ出身の初めての関取」という言い方

2023年5月31日に獅司の十両昇進が決まったとき、読売新聞は「ウクライナ出身で初めての関取」、日刊スポーツは「ウクライナ出身初の関取」と報じました。大鵬の父はウクライナの生まれですが、大鵬自身は樺太に生まれています。「ウクライナ出身」を、ウクライナで生まれた力士と読めば、報道の言い方と大鵬の記録は食い違いません。協会自身が「初めて」と発表した文書は、この記事では見つけていません。

オリュカのひとこと

大鵬の父の名前は、資料でどう書かれているのでしょう。この見出しで確かめられます。

大鵬の父、マルキャン・ボリシコ

大鵬の公式サイトは、父を「ウクライナ人のマルキャン・ボリシコ」、母を日本人の納谷キヨとし、「納谷は母の姓である」と書いています。

父の足どりは、サハリンの研究者ニコライ・ヴィシネフスキーが、サハリン州の公文書や博物館の資料から調べました。その本を訳した小山内道子が、函館日ロ交流史研究会の会報(第43号、2022年)に内容をまとめています。それによれば、サハリン州郷土博物館に残る父の自筆の履歴書には、次のように書かれています。

私、ボリシコ、マルキィアン・カルポヴィチは1885年1月3日、ポルタヴァ県コンスタンチノグラート地区ルノフシィーナ村で生まれました。出身民族はウクライナ人です。

小山内道子「1925年日本軍撤退後サハリンにおける横綱大鵬のウクライナ出身の父親、M.ボリシコ」(履歴書の訳)

同じ論考によれば、ボリシコの一家は1890年代にウクライナから極東へ移り、サハリンで暮らしました。父は北サハリンのアレクサンドロフスク(日本では「亜港」と呼んだ町)で商売をしていましたが、1925年、日本軍が北サハリンから引き揚げるときに、日本領だった南の樺太へ移りました。1927年ごろに納谷キヨと結婚し、敷香で牧畜などを営み、1940年5月にこの家の三男として生まれたのが、のちの大鵬です。

父の名前と、町の名前

父の名前は、資料によって書き方が違います。大鵬の公式サイトは「マルキャン・ボリシコ」、小山内の論考は「マルキィアン・カルポヴィチ・ボリシコ」と、父の名(父称)まで書いています。論考の注は、博物館に残る個人ファイルの名を「Боришко М.К.」と書いています。

地名も、時代によって呼び方が変わりました。

日本の統治のころの呼び名いまの呼び名資料
敷香ポロナイスク小山内の論考
亜港アレクサンドロフスク・サハリンスキー小山内の論考
樺太サハリン小山内の論考
小山内道子の論考(函館日ロ交流史研究会会報 第43号、2022年)の表記による。

小山内の論考は、父の生まれた村を「ハリコフ(ハルキウ)」の地域の村とも紹介しています。履歴書が書く「ポルタヴァ県」は、当時の県の名前です。村のいまの行政区分は、この記事では確かめていません。

1945年の別れ

小山内の論考によれば、1945年8月のソ連軍の侵攻のあと、父は家族と合流できないまま、ソ連の支配下に入ったサハリンに一人で残されました。晩年はサハリン州郷土博物館で守衛として働いていた、と論考は書いています。

横綱のあと

大鵬は1971年5月場所で引退しました(日本相撲協会)。大鵬の公式サイトによれば、引退後は大鵬部屋を開いて弟子を育て、日本相撲協会の相撲博物館の館長も務めました。2011年1月12日には、ウクライナの大統領令(第26/2011号)で3等功労勲章(«За заслуги» III ступеня)を受けています(大鵬の公式サイトは「友好勲章(ウクライナ)」と書いています)。2013年1月19日に亡くなり、同年2月25日に国民栄誉賞を受けています(内閣府の受賞者一覧)。内閣府の一覧は、受賞の理由を「大相撲史上最多となる32回の幕内優勝などの輝かしい功績」と書いています。国立国会図書館の書誌には、大鵬の自伝『巨人、大鵬、卵焼き 私の履歴書』(日本経済新聞社、2001年)があります。

メリトポリ

獅司の出身地として報道が挙げるメリトポリは、ウクライナ政府の「戦闘が行われている、またはロシアに一時的に占領されている地域の一覧」(2026年9月時点の版)で、2022年2月25日からロシアに占領されている町とされています。占領地の住民がロシアの国籍を押しつけられている状況は、占領地で押しつけられる国籍の記事にまとめています。

日本とウクライナのつながりをもっと読む

日本で活動したウクライナ出身の人の記事には、1929年から東京で暮らしたピアニストのレオ・シロタ、日本語で童話を書いたヴァスィリー・エロシェンコの記事があります。

出典と記事の記録出典 14件 · AIの利用 · 運営体制

出典・参考資料

  1. 第48代横綱 大鵬 幸喜本名、しこ名履歴、横綱在位、生年月日、出身地、優勝回数、生涯戦歴、番付推移
    発行:日本相撲協会 確認日:2026-09-27
  2. 獅司 大 力士プロフィール本名、生年月日、出身地、所属部屋、初土俵・新十両・新入幕、最高位、受賞歴。令和8年9月場所千秋楽時点
    発行:日本相撲協会 確認日:2026-09-27
  3. 安青錦 新大 力士プロフィール本名、生年月日、出身地、所属部屋、初土俵・新十両・新入幕・大関昇進、受賞歴。令和8年9月場所千秋楽時点
    発行:日本相撲協会 確認日:2026-09-27
  4. 出身地「ウクライナ」の力士の検索結果獅司・安青錦の2人
    発行:日本相撲協会 確認日:2026-09-27
  5. プロフィール生地と育った町、父母の名前、経歴、受賞歴
    発行:第四十八代横綱 大鵬 オフィシャルサイト(大鵬企画) 確認日:2026-09-27
  6. 国民栄誉賞受賞一覧納谷幸喜、表彰年月日、死亡日、受賞理由
    発行:内閣府 確認日:2026-09-27
  7. 小山内道子「1925年日本軍撤退後サハリンにおける横綱大鵬のウクライナ出身の父親、M.ボリシコ」父の履歴書の訳、サハリンでの暮らし、1925年の移住、結婚、1945年以降。会報第43号、2022年6月15日
    発行:函館日ロ交流史研究会 確認日:2026-09-27
  8. 巨人、大鵬、卵焼き : 私の履歴書書誌
    発行:国立国会図書館 確認日:2026-09-27
  9. ウクライナ初の関取、獅司の新十両昇進が決定2023年5月31日
    発行:読売新聞 確認日:2026-09-27
  10. ウクライナ出身初の関取となった獅司が新十両会見2023年5月31日
    発行:日刊スポーツ 確認日:2026-09-27
  11. 戦火のウクライナから初の関取が誕生 新十両昇進を決めた獅司2023年5月31日。出身地の記載
    発行:スポーツニッポン 確認日:2026-09-27
  12. Про затвердження Змін до Переліку територій, на яких ведуться (велися) бойові дії або тимчасово окупованих Російською Федерацією2026年5月26日 命令第987号、法務省登録 No.782/46176。一覧の新しい版とメリトポリ市の占領開始日
    発行:Міністерство розвитку громад та територій України(Законодавство України) 確認日:2026-09-28
  13. Про затвердження Змін до Переліку територій, на яких ведуться (велися) бойові дії або тимчасово окупованих Російською Федерацією2026年7月16日 命令第1389号、法務省登録 No.1117/46511。2026年9月時点の最新の改正。メリトポリの記載は変えていない
    発行:Міністерство розвитку громад та територій України(Законодавство України) 確認日:2026-09-28
  14. Указ Президента України № 26/2011 «Про нагородження К. Ная орденом "За заслуги"»2011年1月12日
    発行:ウクライナ最高会議 法令データベース 確認日:2026-09-28

記載内容に誤りを見つけた場合は、訂正のご連絡からお知らせください。確認のうえ、訂正した内容と経緯を記事に記載します。