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文化・歴史/解説

10キロ先まで音が届く、カルパティアの木の角笛トレンビタ

トウヒの木を割ってくりぬき、樺の皮で巻いた長さ1〜3メートルの角笛トレンビタ。カルパティアの山で死や婚礼を知らせ、2012年の調査でも葬送の列の最後を歩いて吹く奏者が記録されています。作り方、知らせてきたこと、「世界最長の楽器」という言い方の中身を、事典と調査報告から見ます。

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オリュカのひとこと

山でしか通じない合図が、木の角笛にはあるようです。使われ方を最初の見出しで見てみましょう。

長さは1メートルから3メートル。木の筒を吹いて鳴らし、その音は10キロメートル以上先まで届く。ウクライナ西部のカルパティア山地で使われてきた木の角笛を、トレンビタ(трембіта)といいます。

カナダ・ウクライナ研究所(CIUS)の Internet Encyclopedia of Ukraine(以下IEU)は、トレンビタを「アルプホルン」の一種として説明しています。山の放牧や山地の暮らしについては夏は森の上で暮らす。フツルの山の放牧とブルィンザで扱いました。ここでは楽器そのものと、それが何を知らせてきたかを、事典と学術誌の調査報告から見ていきます(2026年9月時点)。

トウヒの木を割り、樺の皮で巻く

IEUの「Trembita」の項目(1993年の紙版第5巻の再録)によれば、トレンビタはトウヒの木を縦に二つに割って中をくりぬき、合わせて樺の皮で巻いた管楽器です。形はおおむね円錐形で、細い端に金属か角でできた吹き口が付いています。長さは1〜3メートル、音域は2オクターブ以上で、音は強く、10キロメートル以上先まで届くとされます。

IEUの「Folk musical instruments」の項目は、ウクライナの民俗楽器を弦・管・打の三つに大きく分け、トレンビタを木管の管楽器に入れています。同じ管楽器の仲間には、笛のソピルカや、バグパイプのドゥーダがあります。弦楽器のバンドゥーラは旅をした目の見えない歌い手コブザールと、楽器バンドゥーラで紹介しました。

  1. オリュカ

    作り方は、どこでも同じなのかな。

  2. タブリ

    木を選ぶ順番や皮の巻き方が、この見出しの下でわかるよ。

  3. スウネ

    この作り方が地域に共通するかは、この見出しの下ではまだ確かめられていないようだよ。

作り手の家族が語った作り方

ウクライナ国立科学アカデミーのルィリシクィ芸術学・民俗学・民族学研究所の学術誌『民衆創作と民族学』(Народна творчість та етнографія)2012年第4号に載った、民俗学者イリーナ・コヴァリ=フチロの調査報告は、イヴァーノ=フランキーウシク州コシウ地方の村で2012年6月に聞き取った、トレンビタの作り方を記録しています。作り手の家族の説明によれば、乾いたトウヒを半分に割って中を削り、二つを合わせ、7月に用意した樺の皮を蒸して細く切り、巻きつけていきます。接着剤は使わず、よく鳴るように中に酒や水を注いだそうです。

同じ報告は、作り手がいちばん苦労するのは木選びで、雷に打たれた、高くまっすぐなトウヒを探した(そうした木は軽くなる)と記しています。これは報告の中で作り手の家族が語ったこととして書かれているもので、この作り方が地域で広く共通しているかどうかは、報告からは分かりません。この村のトレンビタの長さは3メートルと書かれています。

声の届かない山で、知らせを伝える

IEUによれば、トレンビタは主にウクライナのカルパティア山地で使われてきました。人里から離れた山の中で、人々や牧人たちが、前もって決めておいた合図を送る道具でした。とくに、人が亡くなったこと、葬儀、婚礼を知らせたと同じ項目は書いています。

ウクライナ国立科学アカデミーなどの『ウクライナ現代百科事典』(ЕСУ)の「Гуцульщина」の項目(2006年)は、フツルの葬送の古い特徴のひとつとして、身内の死を知らせるトレンビタの吹奏を挙げています。

2018年に学術誌『芸術と教育』(Мистецтво та освіта)に載ったブルィハ(К. О. Булига)の論文は、その要旨で、トレンビタの役目を「連絡、警告、時刻の知らせ、儀礼の伴奏」に分け、コスマチ村とブルストゥリ村のあたりのトレンビタの音楽を、放牧の山の音楽、クリスマスの祝い歌(コリャードカ)の音楽、葬送の音楽に分けています。

場面何を伝えたか・何に使ったか資料
山の暮らし前もって決めた合図で、離れた人や牧人に知らせるIEU
死と葬儀人が亡くなったこと、葬儀を知らせるIEU、ЕСУ「Гуцульщина」
婚礼婚礼を知らせるIEU
クリスマスの祝い歌コリャードカの音楽ブルィハ(2018年)の要旨
春の聖ユーリーの日たき火とともに吹いて春を迎えるコヴァリ=フチロ(2012年)の聞き取り
出典は記事末尾の一覧。聖ユーリーの日の使い方は、コシウ地方の一つの村での聞き取りによる。

葬送の列の、いちばん後ろで

コヴァリ=フチロの報告は、20世紀の初めにはすでにこの習わしが書き留められていたことを、1912年にリヴィウの『民族誌集成』に載った、コシウ郡の村の葬送の習俗の記録と、ヴォロディーミル・シュヘヴィチの『フツル地方』(Гуцульщина、1902年)から引いて示しています。当時の記録では、トレンビタの悲しい音が家のそばで鳴ると、人々はそこに亡くなった人がいると知った、とされます。

2012年の聞き取りで記録された、コシウ地方の村での流れは次のとおりです。

  • 奏者は、人が亡くなった翌日に来て、遺体が安置された部屋の窓の下で吹く。夕方から、詩編の朗読が続くあいだ、休みをはさんで夜中まで吹く
  • 葬儀の日は朝から来て、墓地へ向かう列のいちばん後ろを歩く。10分ほどごとに立ち止まり、1〜2分吹いてまた歩く
  • 奏者は教会の中には入らず、外で待つ。最後に墓の上で、別れの旋律を3回吹く
  • トレンビタには、儀式で使う聖具と同じように、刺繍の布(ルシュニク)が結ばれる
  • 奏者が列の前に出ると村に死者が続く、という言い伝えがあり、奏者は人々を追い越さないようにする

報告は、葬送のほかに、春の聖ユーリーの日の前の晩にたき火をたいてトレンビタを吹き、春を迎える習わしがあったことも記録しています。一方で、ソ連の時代に祭りや催しの幕開けにトレンビタが使われるようになったことについて、トレンビタは葬送と放牧の山でだけ使うものだとして、よく思わない地元の人の声も書き留めています。IEUは、トレンビタがときに珍しい楽器として交響楽団の編成に加えられることがある、と書いています。

オリュカのひとこと

「世界でいちばん長い楽器」という言い方は、どこから来たのでしょう。この見出しで確かめられます。

「世界でいちばん長い楽器」なのか

トレンビタは「世界でいちばん長い楽器」「ギネスブックに載った楽器」と紹介されることがあります。確かめた範囲では、この言い方を裏づける資料は見つかりませんでした。IEUが書く長さは1〜3メートルで、ギネス世界記録の公式サイトが「最も長いアルプホルン」として載せているのは、ドイツの愛好家の団体が作り、2012年9月16日に計測された長さ26.46メートルの楽器です。トレンビタそのものの記録ではありません。

国の無形文化遺産の目録には

ウクライナ文化省が公開している「無形文化遺産の国内目録」の一覧と、2026年6月までに公開された追加の命令を見た範囲では、トレンビタを名前に含む項目は見当たりませんでした(2026年9月時点)。フツルに関わる項目としては、フツルのピサンカ(彩色卵)、フツルの木彫り、フツルのチーズ細工の伝統などが載っています。フツルの陶器については緑と黄が「涙」のように流れる、コシウの彩色陶器で扱っています。

出典と記事の記録出典 7件 · AIの利用 · 運営体制

出典・参考資料

  1. Trembita材料と作り方、円錐形と吹き口、長さ1〜3メートル、2オクターブ以上、10キロメートル以上、カルパティア、合図、死・葬儀・婚礼の知らせ、交響楽団。紙版は1993年の第5巻
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(Canadian Institute of Ukrainian Studies) 確認日:2026-09-24
  2. Folk musical instruments民俗楽器の分類、トレンビタは木管。執筆 Nestor Nyzhankivsky、紙版は1984年の第1巻
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(Canadian Institute of Ukrainian Studies) 確認日:2026-09-24
  3. Гуцульщинаフツルの葬送の特徴としての、死を知らせるトレンビタの吹奏。執筆 І. А. Пелипейко、第6巻、2006年
    発行:Енциклопедія Сучасної України(Інститут енциклопедичних досліджень НАН України) 確認日:2026-09-24
  4. Коваль-Фучило І. Персонажний код поховального обряду на Косівщині: трембітар(2012年6月のコシウ地方での聞き取り、作り方、木選び、長さ、葬送での吹き方、ルシュニク、言い伝え、聖ユーリーの日、1912年の『民族誌集成』第32巻とシュヘヴィチ『フツル地方』〔1902年〕の引用)// Народна творчість та етнографія. 2012. № 4. С. 89–93
    発行:Інститут мистецтвознавства, фольклористики та етнології ім. М. Т. Рильського НАН України 確認日:2026-09-24
  5. Булига К. О. Трембіта как символ гуцульської культури(要旨:トレンビタの役目の分類、コスマチ・ブルストゥリ一帯の音楽の区分)// Мистецтво та освіта. 2018. № 1 (87). С. 20–24
    発行:Мистецтво та освіта 確認日:2026-09-24
  6. Longest alphorn26.46メートル、ドイツの Rottumtaler Alphornbläser、2012年9月16日の計測
    発行:Guinness World Records 確認日:2026-09-24
  7. Національний перелік елементів нематеріальної культурної спадщини України(国内目録の一覧)と、目録への追加の命令2024〜2026年6月
    発行:Міністерство культури України 確認日:2026-09-24

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