ウクライナ語の本は9割近くに。数字で見るウクライナの出版
ウクライナで2025年に出た本は1万5,069点で、ウクライナ語の本が9割近くを占めます。2022年に半分以下に落ちた刊行点数の推移、2023年に効力を持ったロシアとベラルーシの本の輸入禁止、18歳に本の購入費を給付する「єКнига」や書店の家賃補助まで、書籍会議所の統計と法律の条文からまとめました。
オリュカのひとこと
2025年の1万5,069点は、もう動かない数字なのでしょうか。納本が遅れて届く事情を本文で確かめられます。
ウクライナで2025年に出た本とパンフレットは1万5,069点、刷られた部数は合わせて3,321万部でした。そのうち1万3,379点がウクライナ語で、点数の9割近くを占めます。全面侵攻前の2021年は2万1,095点で、ウクライナ語は8割に届いていませんでした。
数字を出しているのは、国の出版統計と納本を担う「ウクライナ書籍会議所」(Книжкова палата України імені Івана Федорова)です。以下は、同会議所が公開している年ごとの集計と、最高会議の法令データベースにある法律の条文にもとづき、2026年9月時点の内容をまとめたものです。
刊行点数と部数の5年
書籍会議所の集計では、全面侵攻が始まった2022年に、刊行点数は前年の半分以下の9,691点、部数は4分の1ほどの1,170万部に落ちました。2023年からは点数が1万5,000点前後に戻っていますが、2021年の水準には届いていません。
| 年 | 刊行点数 | 部数(千部) | うちウクライナ語(点) | ウクライナ語の割合 | うちロシア語(点) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2021 | 21,095 | 44,753.6 | 16,206 | 76.8% | 2,576 |
| 2022 | 9,691 | 11,704.2 | 7,968 | 82.2% | 762 |
| 2023 | 15,187 | 24,664.0 | 12,688 | 83.5% | 700 |
| 2024 | 14,500 | 34,017.2 | 12,597 | 86.9% | 472 |
| 2025 | 15,069 | 33,210.7 | 13,379 | 88.8% | 260 |
ロシア語の本は、2021年の2,576点から2025年の260点まで減りました。点数に占める割合でいえば、12%から2%を切るところまで下がっています。なお表の「ウクライナ語」と「ロシア語」のほかに、英語などの外国語の本と、ウクライナ語とほかの言語を組み合わせた本があります。2025年は英語が433点、複数の言語による本が858点でした。
部数の半分は教科書と学習書
部数を押し上げているのは教育用の本です。書籍会議所の2025年の集計では、「教育・方法書」が3,996点・1,757万部で、全体の部数の半分を超えます。文学(「文学・民話」の部)は4,496点・833万部、子どもと若者向けの本は1,918点・421万部でした。2021年の文学は4,157点・360万部だったので、点数はほぼ同じで、部数は2倍を超えています。
2025年の集計には、ほかの言語からの翻訳書が3,642点あります。また、部数が500部以下の本が7,203点で、点数の半分近くを占めます。
数字は後から増える
この統計は、出版社が法律にもとづいて送る納本(義務納本)を数えたものです。書籍会議所は統計のページで、出版社が納本を期限どおりに送らないため、以前のように年と年を比べる分析は「いまは意味をなさない」と注意しています。2025年分でも、部数が書かれていない本が1,387点ありました。
納本が遅れて届けば、あとから数字が増えます。2026年分は、9月21日時点で8,948点・1,538万部です。年の途中の数字や、発表された時期が早い数字を、その年の確定値として読まないほうが安全です。
ハルキウとキーウ
地域別に見ると、2025年はキーウ市が4,948点・1,495万部、ハルキウ州が3,714点・1,323万部で、この二つで点数の6割近く、部数の8割以上を占めます。ロシアに占領されている地域を含む州は、ドネツィク州が1点、ルハンシク州が1点、ヘルソン州が7点でした。
書籍会議所自身も被害を受けています。同会議所はウェブサイトで、2025〜2026年のロシアによるキーウへの攻撃で建物が傷み、暖房・給水・排水の設備が使えなくなったとして、支援を呼びかけています。会議所の「国立印刷物アーカイブ」には、1,500万点を超える出版物が保管されています。
ロシアとベラルーシの本の輸入禁止
2022年に採択、署名は1年後
ロシアの本の流入を法律で絞る動きは、全面侵攻の前から始まっていました。2016年12月8日の法律第1780-VIII号は、出版事業法に「侵略国」(ロシア)と占領地からの出版物の輸入に許可を求める条文(第28-1条)を加えました。
全面侵攻後の2022年6月19日、最高会議はこの条文を書き換える法律第2309-IX号を採択しました。ところが大統領の署名は、それから1年後の2023年6月22日でした。法律は2023年6月24日に官報「ホロス・ウクライィヌィ」に載り、翌25日に効力を持ちました。署名までの経緯は、ウクライナのメディア監視団体「デテクトル・メディア」の記事が伝えています。
何が禁じられたか
書き換えられた出版事業法第28-1条は、おおむね次のことを定めています。
- ロシア、ベラルーシ、ウクライナの占領地で作られた・出された・そこから運ばれる出版物は、輸入も販売・頒布もできない。占領地で占領の前に出された物の頒布は除く
- 1991年より後のどこかの時点でロシア国籍を持っていた、または持っている著者の作品を含む本も、同じく禁じる。ただし、ロシア国籍を離れてウクライナ国籍を持つ(亡くなった時点で持っていた)人は除く
- それ以外の国で出たロシア語の本は、国の機関の許可があれば輸入・頒布できる。許可の期間は、権利者との契約の期間で、長くて5年
- 個人が売る目的でなく持ち込む場合は、手荷物で10冊までなら、この制限の対象にならない。「反ウクライナ的な内容の出版物」の登録簿に載っている本は除く
- 違反して頒布した事業者には、1回目は最低賃金の2倍、2回目からは10倍の過料
ロシア国籍の著者の本の頒布を禁じる規定は、2023年1月1日より前にウクライナ国内で出た本には及びません(同法の経過規定)。
同じ法律は、国家語法第26条にも条文を加えました。本はウクライナ語、ウクライナの先住民族の言語、EUの公用語で出し、頒布するのを原則とし、原語のままの作品や、それらの言語への翻訳などを例外とする内容で、2023年1月1日から効力を持っています。国家語法の全体は段階を踏んだウクライナの国家語法で扱っています。
オリュカのひとこと
18歳になると、本を買うための給付はどう受け取れるのでしょう。「єКнига」の仕組みはこの節の後半にあります。
国の支援:翻訳、図書館、書店、18歳の読者
国の出版支援の中心にいるのが、国の機関「ウクライナ書籍院」(Український інститут книги)です。2016年1月28日の法律第954-VIII号が、「書籍出版事業への国の支援に関する法律」(2003年、第601-IV号)に書籍院の条文を加えました。同法第7条は、書籍院の目的として、出版の支援、読書の普及、翻訳の促進、ウクライナ文学の海外への紹介を挙げています。
内閣決定第638号(2019年6月12日。2026年1月31日時点の版)は、書籍院に配られた国の予算の使い道を、次のように定めています。
- 公共図書館の蔵書を補うための本の購入。書籍院が選んだ本を買い、国立・州立の図書館などに配る。ウクライナ語の本は国内の出版社から買う
- 読書とウクライナ文学を広める催し(本の見本市、文学祭など)
- ウクライナ文学をほかの言語に訳す事業の支援
- 「ウクライナ・デジタル図書館」の運営
- 国民が本を買うための国の給付(下で説明)
ウクライナ文学の翻訳出版を助成する「Translate Ukraine」については、ウクライナ文学は何から読むかで触れています。
書店の家賃を国が補う
2022年6月19日の法律第2313-IX号は、本を専門に売る書店に、家賃の一部を国が補う補助を設けました。受付は2023年4月1日からです。条件は、店の売上の80%以上がウクライナ語など決められた言語の本であること、店の面積の80%以上が売り場であることなどで、ロシアや占領地から来た本は数えません。補助の上限は、地域の人口に応じて、1平方メートルあたり月に生活最低水準額(法律で毎年決まる額)の0.08〜0.35倍、面積は50〜150平方メートルまでです。いちばん手厚いのはキーウ市と国際空港です。
18歳になったら「єКнига」
2024年5月22日の法律第3731-IX号は、国民が本を買うための給付を定めました。2024年1月1日以降に18歳になった国民が対象で、給付は2024年7月1日から始まっています。18歳になってから1年のあいだに申請すると、その年の生活最低水準額の0.3倍が、用途の決まった口座「єКнига」(イェクニーハ)に入ります。使えるのは、登録された書店で買うウクライナ語の本(紙・電子・オーディオブック)だけで、ロシアや占領地から来た本は買えません。申請は国の電子行政ポータルで行います。
同じ法律は、子どもが生まれたときにも親に同じ給付を行うと定めていますが、その開始は戒厳令が終わった翌年の1月1日からとされています。
本はほかに、国産品を買うと代金の一部が戻る制度の対象にもなっています。こちらはナショナル・キャッシュバックの記事にまとめています。
出典と記事の記録
出典・参考資料
- Відомості бібліографічного реєстру книжкової продукції2025年と2026年9月21日時点の刊行点数・部数、言語別。納本の遅れについての注意
発行:Книжкова палата України імені Івана Федорова 確認日:2026-09-24 - Випуск книжкової продукції в Україні в 2021 році本とパンフレット21,095点・44,753.6千部、ウクライナ語16,206点、ロシア語2,576点、教育・方法書、文学、子ども向け
発行:Книжкова палата України імені Івана Федорова 確認日:2026-09-24 - Випуск книжкової продукції в Україні в 2022 році9,691点・11,704.2千部、ウクライナ語7,968点、ロシア語762点
発行:Книжкова палата України імені Івана Федорова 確認日:2026-09-24 - Випуск книг і брошур у 2023 році15,187点・24,664千部、ウクライナ語12,688点、ロシア語700点
発行:Книжкова палата України імені Івана Федорова 確認日:2026-09-24 - Загальні дані про випуск неперіодичних видань 202414,500点・34,017.2千部、ウクライナ語12,597点、ロシア語472点
発行:Книжкова палата України імені Івана Федорова 確認日:2026-09-24 - Зведені адміністративні дані випуску неперіодичних видань в Україні у 2025 р.15,069点・33,210.7千部、言語別、翻訳書3,642点、部数別、主題別、目的別、地域別、部数の記載なし1,387点
発行:Книжкова палата України імені Івана Федорова 確認日:2026-09-24 - Книжкова палата Україниトップページ。2025〜2026年の攻撃による建物の被害と支援の呼びかけ、国立印刷物アーカイブの所蔵1,500万点超
発行:Книжкова палата України імені Івана Федорова 確認日:2026-09-24 - Закон України від 08.12.2016 № 1780-VIII出版事業法に第28-1条を追加し、侵略国と占領地からの出版物の輸入に許可を求める。2016年12月31日公布
発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Закон України від 19.06.2022 № 2309-IX第28-1条の書き換え、10冊までの例外、罰則、2023年1月1日前の国内刊行本の扱い、国家語法第26条の追加。2023年6月24日公布、6月25日施行
発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Президент підписав закон, який забороняє ввезення та розповсюдження книжок з Росії та Білорусі2023年6月22日の署名、2022年6月20日に署名に回された経緯
発行:Детектор медіа 確認日:2026-09-24 - Закон України «Про видавничу справу» № 318/97-ВР現行の第28-1条
発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Закон України «Про державну підтримку книговидавничої справи в Україні» № 601-IV第7条の書籍院の目的と954-VIII号による追加、第8-2条の書店の家賃補助の条件と上限、第8-3条の本の購入の給付
発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Закон України від 19.06.2022 № 2313-IX書店の家賃補助の受付を2023年4月1日からとする経過規定
発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Закон України від 22.05.2024 № 3731-IX本の購入の給付「єКнига」、18歳の給付は2024年7月1日から、出生時の給付は戒厳令終了の翌年から
発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Постанова Кабінету Міністрів України від 12.06.2019 № 638書籍院の予算の使い道。2026年1月31日時点の版
発行:Кабінет Міністрів України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
記載内容に誤りを見つけた場合は、訂正のご連絡からお知らせください。確認のうえ、訂正した内容と経緯を記事に記載します。





