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社会を知る/解説

クリミア・タタール、カライム、クリムチャク。ウクライナの先住民族法

ウクライナは2021年の法律で、クリミア半島で形づくられたクリミア・タタール、カライム、クリムチャクの三つの民族を先住民族と定めました。2026年4月には内閣が、クリミア・タタールの代表機関メジリスに法律上の地位を与えています。ロシアが禁じたメジリスをめぐって国際司法裁判所が何を認め、何を認めなかったかも合わせてまとめます。

オリュカのひとこと

法律は、クリミア・タタール、カライム、クリムチャクの三つの民族をどう定めているのでしょう。最初の見出しで確かめましょう。

2021年7月1日、ウクライナ最高会議は法律 № 1616-IX「ウクライナの先住民族について」を採択しました。7月23日に最高会議の機関紙に掲載され、その日から施行されています。ロシアが2014年にクリミアを占領してから7年後のことです。

法律は短く、11条しかありません。それでも、ウクライナで初めて「先住民族」を法律で定義し、どの民族がそれにあたるかを名指ししました。

法律が挙げた三つの民族

第1条は、ウクライナの先住民族を次のように定義しています。ウクライナの領域で形づくられた土着の民族共同体で、独自の言語と文化を持ち、伝統的・社会的・文化的な機関か代表機関を持ち、自らを先住民族と認識し、人口の中では民族的少数派であり、ウクライナの外に自分たちの国家を持たない人びと。

そのうえで第2項が、「クリミア半島の領域で形づくられたウクライナの先住民族」として、クリミア・タタール、カライム(караїми)、クリムチャク(кримчаки)の三つを挙げています。

民族Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS)などの記述
クリミア・タタール2001年の全ウクライナ国勢調査で24万8,200人(国家統計委員会の集計)
カライム聖書だけを権威とし、タルムードを認めないユダヤ教の一派の人びと。ウクライナのカライムは民族としてはテュルク系で、クリミアのほか西ウクライナのルツィクやハールィチの近くにも住んだ。言語はテュルク語のキプチャク語群に属する
クリムチャククリミアに住むテュルク語を話すユダヤ人で、タルムードに基づくユダヤ教を信仰した。第二次世界大戦中に多くがナチスに殺された。2001年の国勢調査で406人
出典:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS)の「Karaites」「Krymchaks」の項、ウクライナ国家統計委員会「2001年全ウクライナ国勢調査 民族構成」。2026年9月24日確認。

法律は前文で、国連の「先住民族の権利に関する宣言」と、2014年3月20日の最高会議の決議 № 1140-VII を拠りどころに挙げています。この決議は、クリミアで行われた「違憲の住民投票」(決議の表現)の直後に出されたもので、クリミア・タタールを先住民族として、その自決の権利をウクライナの中で保障すると宣言しました。クルルタイ(民族会議)をクリミア・タタールの最高代表機関、メジリスをその執行機関として認め、国連宣言への支持も表明しています。

国連の宣言は、2007年9月13日の国連総会で賛成143、反対4、棄権11で採択されました。ウクライナは、このときロシアなどとともに棄権しています。最高会議が支持を表明したのは、それから7年後のことでした。

法律が定める権利

第2条から第7条が、先住民族の権利を並べています。主なものは次のとおりです。

  • ウクライナの中での自決の権利。内部の事柄について自治を行い、代表機関のつくり方を自ら決める(第2条)
  • ジェノサイドや集団的な強制・暴力からの保護を国が保障する(第2条)。強制的な同化や、住む土地からの追放に対する法的保護(第3条)
  • 言語、歴史、伝統、文字を復興し、次の世代へ伝える権利。先住民族であることの否定を禁じる(第3条)
  • 自らの言語で学ぶ教育機関をつくる権利。消滅の危機にある言語の研究と保存を国が保障する(第5条)
  • 代表機関が株式などの51%以上を持ち、放送の50%以上を先住民族の言語で行うなどのメディアへの、国の支援(第6条)
  • 先住民族にかかわる国や地域の計画について、「自由で事前の、情報を得たうえでの同意」の原則で参加する権利(第7条)

歴史的な地名の回復も書かれています。内閣は代表機関と協議したうえで、居住地の改称の決議案を最高会議に出すとしています(第4条)。

まだ使えない権利もあります。クリミアとセヴァストポリの天然資源から国や自治体が得る収入の一部を、先住民族のために使う権利(第7条第3項)は、占領された地域がウクライナの管轄に戻ってから施行されると定められています(第11条)。

メジリスが法律上の代表機関になるまで

法律は、代表機関の名前を挙げていません。第8条は、代表機関が法律上の権利と義務を得るのは、内閣がその地位を定める決定をしてからだとしています。そして、地位を持つ代表機関がない民族については、行政機関との協議も行われないとしています。

クリミア・タタールの代表機関とされてきたのは、メジリスです。メジリスの公式サイトによれば、1991年6月26日にシンフェロポリで開かれた第2回クルルタイで、代議員の中から33人のメジリスと、議長のムスタファ・ジェミレフ(Мустафа Джемілєв)が選ばれました。

法律の施行から4年あまりたった2026年4月2日、ゼレンスキー大統領は大統領令 № 293/2026 で、メジリスにクリミア・タタールの代表機関としての法的地位を与える手続きを「ただちに」進めるよう内閣に求めました。内閣は翌3日の決定 № 303-р で、メジリスにその地位を与えています。決定は、クリミア・タタール語と文化の発展、クリミア・タタール語での教育、クリミア・タタール語のメディア、社会への統合などについて、行政機関がメジリスと協議したうえで決めるよう定めました。

カライムとクリムチャクの代表機関に地位を与える内閣の決定は、2026年9月時点で確認できていません。

ロシアによるメジリスの禁止

ロシアが占領したクリミアでは、メジリスは活動を禁じられています。国連総会が2016年12月19日に採択した決議71/205は、2016年4月26日の「いわゆるクリミア最高裁判所」の決定と、同年9月29日のロシア連邦最高裁判所の決定が、メジリスを「過激派組織」としてその活動を禁じたことに深刻な懸念を示しました。そのうえで、ロシアにこの決定をただちに取り消し、メジリスの指導者のクリミアへの入域禁止を撤回するよう求めています。

ロシアは国際司法裁判所で、メジリスはクリミア・タタールの唯一の代表機関ではなく、禁止は安全と公の秩序のための措置で、民族とは関係がないと主張しました。

オリュカのひとこと

国際司法裁判所の判断は、どこまでを認めたものでしょう。認めた点と認めなかった点を分けて読みましょう。

国際司法裁判所は何を認め、何を認めなかったか

ウクライナは2017年1月16日、ロシアを国際司法裁判所(ICJ)に訴えました。根拠にしたのは、テロ資金供与防止条約と人種差別撤廃条約の二つです。クリミアについては、ロシアがクリミア・タタールとウクライナ系の住民に人種差別を行っていると訴え、メジリスの禁止、指導者の迫害、記念行事の妨害、失踪と殺害、捜索と拘束、メディアの封殺、クリミア・タタール語の教育の抑圧などを挙げていました。

裁判所は2017年4月19日、判決までの暫定措置として、ロシアに二つのことを命じました。メジリスを含むクリミア・タタールの代表機関を保つ力に制限を加えたり、それを維持したりしないこと(13対3)。そして、ウクライナ語での教育を受けられるようにすること(全会一致)です。

2024年1月31日の判決(上訴はできず、当事国を拘束する)は、人種差別撤廃条約とメジリスについて次のように判断しました。

判断内容票決
違反を認めた2014年以降のクリミアの教育制度の運用で、ウクライナ語による学校教育について、人種差別撤廃条約第2条第1項(a)と第5条(e)(v)に違反した13対2
退けた人種差別撤廃条約についてのウクライナのそれ以外の請求をすべて退ける10対5
違反を認めたメジリスへの制限を維持したことで、2017年の暫定措置命令(第106項(1)(a))に違反した11対4
違反を認めた紛争を悪化させる行動を控えるよう求めた暫定措置命令(第106項(2))に違反した10対5
退けた暫定措置命令についてのウクライナのそれ以外の請求をすべて退ける11対4
出典:国際司法裁判所の2024年1月31日の判決主文(同日のプレスリリース No. 2024/8、国連総会に提出された裁判所の年次報告 A/79/4)。テロ資金供与防止条約についての判断は表に含めていない。

つまり裁判所は、メジリスの禁止そのものを人種差別撤廃条約の違反とは認めませんでした。訴えの段階で挙げられていた失踪や殺害、クリミア・タタール語の教育などについても、同じ条約の違反は認めていません。一方で、2017年に「メジリスへの制限を維持しないように」と命じたにもかかわらず、ロシアが制限を続けたことは、裁判所の命令への違反だと認めています。

同じ判決は、テロ資金供与防止条約について、ウクライナから受け取った情報をもとに容疑者の捜査をしなかった点でロシアの違反を認め(13対2)、それ以外の請求を退けました(10対5)。

日本政府がロシアによるクリミアの「併合」をどう扱っているかは、クリミアは2014年、4州は2022年。日本はどちらの「併合」も認めていないで扱いました。

出典・参考資料

  1. Закон України № 1616-IX «Про корінні народи України»(2021年7月1日採択、法案 № 5506、2021年7月23日施行、前文・第1〜8条・第11条)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  2. Постанова ВРУ № 1140-VII «Про Заяву Верховної Ради України щодо гарантії прав кримськотатарського народу у складі Української Держави»(2014年3月20日。先住民族、自決、メジリスとクルルタイの承認、国連宣言の支持)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  3. Указ Президента України № 293/2026 «Про деякі питання забезпечення прав кримськотатарського народу»(2026年4月2日)
    発行:Президент України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  4. Розпорядження КМУ № 303-р «Про закріплення правового статусу представницького органу кримськотатарського народу»(2026年4月3日)
    発行:Кабінет Міністрів України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  5. A/61/PV.107(2007年9月13日の国連総会本会議。先住民族の権利に関する宣言の採択、143対4、棄権11、棄権国にウクライナとロシア)
    発行:United Nations General Assembly 確認日:2026-09-24
  6. A/RES/71/205 Situation of human rights in the Autonomous Republic of Crimea and the city of Sevastopol (Ukraine)(2016年12月19日採択。2016年4月26日・9月29日の決定への懸念、取り消しの要求)
    発行:United Nations General Assembly 確認日:2026-09-24
  7. Application of the ICSFT and CERD (Ukraine v. Russian Federation), Order of 19 April 2017(ウクライナの請求の内容、ロシアの主張、第106項の暫定措置と票決)
    発行:International Court of Justice 確認日:2026-09-24
  8. Press Release No. 2024/8: The Court delivers its Judgment(2024年1月31日。提訴日、判決主文と票決、判決の拘束力)
    発行:International Court of Justice 確認日:2026-09-24
  9. A/79/4 Report of the International Court of Justice, 1 August 2023–31 July 2024(第82〜90項。判決主文の再確認、ウクライナの主張の要約)
    発行:United Nations General Assembly 確認日:2026-09-24
  10. About Kurultai(1991年6月26日の第2回クルルタイ、33人のメジリス、議長ムスタファ・ジェミレフ)
    発行:Меджліс кримськотатарського народу 確認日:2026-09-24
  11. Karaites;Krymchaks
    発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-24
  12. Всеукраїнський перепис населення 2001: Національний склад населення(クリミア・タタール 248.2千人)
    発行:Державний комітет статистики України 確認日:2026-09-24

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