у Львові と в Одесі。ウクライナ語の у と в、і と й
ウクライナ語では「〜に」の前置詞が、у Львові では у、в Одесі では в になります。子音や母音が続くのを避ける「響きの良さ」の決まりで、「そして」の і と й、з・із・зі も同じです。2026年に国家語の標準となった正書法の §23〜§25 の決まりを表にし、1993年版・2019年版からの変化もまとめました。
オリュカのひとこと
у と в、і と й は、どうやって使い分けるのでしょう。最初の見出しで確かめられます。
ウクライナ語の正書法(правопис)の例文に、次の二つが並んでいます。Діти побували у Львові(子どもたちはリヴィウに行ってきた)と、Вона побувала в Одесі(彼女はオデーサに行ってきた)。「〜に、〜で」を表す前置詞が、片方では у、もう片方では в になっています。意味は同じです。違うのは、前後にどんな音が来るかです。
ウクライナ語には、このように前後の音で形を選ぶ語がいくつかあります。前置詞の у と в、「そして」の і と й、「〜から、〜と」の з・із・зі です。以下、その決まりを、2026年3月28日に国家語の標準として効力を持った『Український правопис』(以下、2026年の標準)、その元になった2019年版、1993年の第4版の正書法と、ウクライナ国立科学アカデミーの言語学研究所とウクライナ語研究所が編んだ『Українська мова. Енциклопедія』(ウクライナ語百科事典、第2版2004年。以下、百科事典)、アカデミーの辞書の記述にもとづいてまとめます。確認は2026年9月時点です。
なぜ形を変えるのか:響きの良さ
2026年の標準の §23〜§25 は、どれも同じ理由から始まります。発音しにくい子音の連続や、母音の連続を避け、「милозвучність」(響きの良さ)を得るため、という説明です。
百科事典の「Милозвучність」(響きの良さ)の項(В. С. Калашник 執筆)は、これを言語の音の仕組みが持つ、なめらかに響く力と定義しています。そして、いまの文章語で響きの良さに役立つものとして、в — у — ув — уві — ві、від — од、з — зі — із、би — б、же — ж、і — й、хоч — хоча といった語の形の揺れを挙げ、こうした例は「正音法上の交替」(орфоепічні чергування)と呼ばれる、と書いています。同じ項は、ウクライナ語は響きの良さでイタリア語と比べられる、とも書いていますが、誰がそう比べたのかは示していません。
у を使うところ、в を使うところ
2026年の標準の §23 は、前置詞 у・в と、語の初めの у-・в- について、次のように定めています。子音が続くのを避けるときは у、母音が続くのを避けるときは в、というのが基本です。
| 使う形 | 位置(2026年の標準 §23 のとおり) | 標準の例 |
|---|---|---|
| у | 子音を表す文字と文字の間 | Наш учитель(私たちの先生) |
| у | 文や語の初めで、子音の前 | У лісі пахло квітами(森は花の香りがした) |
| у | 文の初めで、є、ї、ю、я で始まる語の前 | У Європі…、У Юрія… |
| у | 文や語の初めで、二つか三つの子音の前 | У структурі слова…、Утроє склали папір |
| у | 前の語の終わりにかかわらず、в、ф、льв-、зв-、св-、дв-、тв-、гв-、хв- などの前 | Сидимо у вагоні、у Львові、у формуванні、Постукали у двері |
| у | コンマなどで区切られた後で、子音の前 | Стоїть на видноколі мати – у неї вчись |
| в | 母音を表す文字と文字の間 | Вона побувала в Одесі |
| в | 文の初めで、母音で始まる語の前 | В Антарктиді працюють наукові експедиції |
| в | 子音で終わる語の後で、母音で始まる語の前 | Вартовий поглянув в отвір |
| в | 最初の文字の名前が母音で始まる略語の前 | в НБУ、в МВФ |
| в | 母音の後で、たいていの子音の前(в、ф、льв- などを除く) | Пішла в садок вишневий(シェウチェンコ) |
標準は注で、у・в の変わった形も挙げています。子音が重なる前では уві・вві(уві сні=夢の中で)、文学作品では母音の前の ув(ув очі)が見られる、という説明です。
オリュカ
前後の音で形が変わらない語も、あるのかな。
ヨリクネ
辞書で見つからないときの引き直し方も、この見出しの下に書いてあるよ。
タブリ
使う位置の一覧は、すぐ上の表に戻れば見られるよ。
いつも у、いつも в で書く語
前後の音にかかわらず形が決まっている語もあります。§23 第3項は、いつも у で書く語として увага(注意)、умова(条件)、установа(機関)、Угорщина(ハンガリー)、Умань(ウマニ)などを、いつも в で書く語として влада(権力)、власний(自分の)、вплив(影響)などを挙げています。
意味によって у と в を使い分ける語もあります。標準は удача と вдача、уклад と вклад、управа と вправа、уступ と вступ の組を挙げています。辞書を引くと、11巻本の辞書は удача を「成功、うまくいくこと」、20巻本の辞書は вдача を「その人の性格」と説明しています。国の名前 Україна は、詩ではВкраїна とも書かれてきた、と標準は注記しています。
辞書を引くときにも、この交替が関わります。20巻本の辞書のオンライン版で ВЗЯ́ТИ(取る)を引くと「див. узя́ти」(узяти を見よ)と出て、説明は у の見出しにあります。11巻本の辞書は、見出しを「УЗЯТИ (ВЗЯТИ)」と立てています。в で見つからない語は у で、у で見つからない語は в で引き直すと見つかることがあります。辞書の見出しの読み方はлютого と打つと「ルター派」が出る。ウクライナ語の辞書の引き方にまとめています。
і と й
「そして」の і と й、語の初めの і- と й- も、同じ考え方で使い分けます(§24)。
- і:子音と子音の間(Вірю в пам’ять і серце людське=私は記憶と人の心を信じる)、句点・コンマなどの後で子音の前、文や語の初め(І долом геть собі село…、シェウチェンコ)
- й:母音と母音の間(У садку співали Ольга й Андрій)、母音と子音の間(Навчає баєчка великого й малого)
- 語の初めでも同じで、Він іде(彼は行く)と Вона йде(彼女は行く)、Він, імовірно, …(たぶん)と Висока ймовірність(高い確率)のように形が変わる
ただし、いつも і を使う場合があります。二つのものを対比するとき(батьки і діти=親と子、правда і кривда=真実と不正)と、й、є、ї、ю、я で始まる語の前(Ольга і Йосип、Світлана і Єва)です。й、я、ю、є、ї の後では、「そして」に і か та を使う、とも標準は定めています。
з、із、зі、зо
「〜から」「〜と一緒に」の前置詞 з には、із、зі、зо という形があります(§25)。
- з:母音の前(Диктант з української мови=ウクライナ語の書き取り)、文の初めで子音の前(з・с・ц と ж・ч・ш を除く。З лісу потягло прохолодою)、母音と子音の間(я з любов’ю)
- із:主に з、с、ц、ж、ч、ш の一文字の前(із золота=金で、із села=村から、із шовку=絹で)
- зі:з、с、ш などで始まる子音の連続の前(зі школи=学校から、зі Львова=リヴィウから、зі зброєю=武器を持って)
- зо:два、три(2、3)の前と、мною(私と)の前(Проспав зо три години=3時間ほど眠った)
標準は、із と зі がどちらでもよい場合があるとし、Тихович разом із сходом сонця…(コツュビンシキー)と Він устав разом зі сходом сонця(日の出とともに起きた)を並べています。
オリュカのひとこと
この決まりは、正書法の版によって変わってきたようです。この見出しで見比べられます。
1993年、2019年、2026年の正書法を比べる
この決まりは、正書法の版が変わるたびに、少しずつ書き方が変わってきました。条の番号と中身を並べます。
| 版 | 条 | 変わったところ(前の版と比べて) | 典拠 |
|---|---|---|---|
| 1993年(第4版) | §11 у・в、§12 і・й、§13 з・із・зі | у・в は「交替する」(чергуються)と書かれ、交替しない語として固有名詞と外来語(Врубель、Владивосток、Угорщина、Урал など)を挙げる。з は「子音(с、ш を除く)の前」 | 1993年版 |
| 2019年 | §23・§24・§25 | у を使う位置に「文や語の初めで二つか三つの子音の前」、в を使う位置に「子音の後で母音の前」「略語の前」などが加わる。у の前に来る子音の組に зв-、дв-、гв- が加わる。і と та の使い分け(§24 第4項)が加わる。з を使わない子音が「з、с、ц と ч、ш、шч」になる | 2019年版 |
| 2026年(国家語の標準) | §23・§24・§25(番号は同じ) | 文の初めで є、ї、ю、я の前は у、という項が加わる。文や語の初めで в も使える、という注が加わる。例の固有名詞が入れ替わる(Урал、Владивосток がなくなり、Умань、Врублевський が入る。文化省は、侵略国とその同盟国に関係する名前を例から除いたと説明)。з を使わない子音が「з、с、ц と ж、ч、ш」になる | 2026年の標準 |
昔の呼び名:「交替」から「使い方」へ
規則の名前も変わっています。1993年版の §11 は「В українській мові чергуються … прийменники у, в」(ウクライナ語では前置詞 у と в が交替する)と書き出していました。百科事典も、この現象を「交替」(чергування)の一種として説明しています。2019年版の §23 の見出しは「Позиції вживання прийменників і префіксів У та В」(前置詞と接頭辞 у・в を使う位置)、2026年の標準は「Уживання прийменників У, В і початкових У-, В-」(前置詞 у・в と、語の初めの у-・в- の使い方)です。2026年の標準は、語の初めの у-・в- を「接頭辞」(префікс)とは呼ばず、「語の初めの」(початкові)と呼んでいます。
オリュカ
文の初めの у と в は、版によって扱いが違うのかな。
スウネ
版ごとの書き方の違いと文化省の説明が、この見出しの下に並んでいるよ。
タブリ
版の順番は、この見出しの前の表でたどれるよ。
文の初めは у だけか
版によって扱いが分かれる点もあります。2019年版の §23 は、文や語の初めで子音の前には у を使うとし、例に У лісі пахло квітами を挙げるだけでした。2026年の標準は同じ項に注を加え、「文や語の初めでは в と в- も使える」として、В лісі пахло квітами、Вгорі яскраво сяяло сонце、Внаслідок зливи пошкоджено дороги を例に挙げています。
一方、文化省は、2026年の標準での変更を、誤植や重複の訂正、規範を変えない言い回しの明確化、例の追加、侵略国とその同盟国に関係する名前の例からの削除などの編集上の修正だとし、利用者にとっての確立した正書法の規則には影響しない、と説明しています。2019年版と2026年の標準のどちらに従った文章かによって、文の初めの у と в の見え方が違うことがある、と考えておくと読み違えが少なくなります。2019年の正書法が2026年に国家語の標準になった経緯は、2019年の正書法は、7年後に「国家語の標準」になったで扱っています。
文学作品では、決まりから外れることもある
どの版の正書法も、この決まりから外れる文章があることを認めています。2019年版は、у・в の使い分けが外れる理由を「リズムや旋律の求め、または作者の言葉の好み」とし、2026年の標準は「文学作品では、リズムや旋律の求めによって外れることがある」と書いています。「作者の言葉の好み」という言い方は、2026年の標準にはありません。詩や歌詞で、決まりと違う形に出会っても、誤植とは限りません。
ウクライナ語の文字と音の全体はウクライナ語とロシア語はどこが違うのかでも扱っています。
出典と記事の記録
出典・参考資料
- 『Український правопис』国家語の標準2026年版。§23 у・в〔第1項1〜6号、注1・注2、第2項1〜6号、注1・注2、第3項〕、§24 і・й、§25 з・із・зі・зо、序文
発行:Національна комісія зі стандартів державної мови 確認日:2026-09-27 - Рішення № 47 «Про затвердження Українського правопису як стандарту державної мови»2026年3月1日。承認と効力発生の条件
発行:Національна комісія зі стандартів державної мови 確認日:2026-09-27 - 『Український правопис』2019年版§23「Позиції вживання прийменників і префіксів У та В」、§24、§25
発行:Українська національна комісія з питань правопису(Український центр оцінювання якості освіти のサイトに掲載された版) 確認日:2026-09-27 - 『Український правопис』4-те видання, виправлене й доповнене1993。§11 у・в、§12 і・й、§13 з・із・зі
発行:Академія наук України, Інститут мовознавства ім. О. О. Потебні, Інститут української мови(Наукова думка) 確認日:2026-09-27 - Українська мова. Енциклопедія, 2-ге вид.2004。「Милозвучність」〔В. С. Калашник。定義、в — у — ув — уві — ві などの形の揺れ、орфоепічні чергування、イタリア語との比較〕
発行:НАН України, Інститут мовознавства ім. О. О. Потебні, Інститут української мови(Вид-во «Українська енциклопедія» ім. М. П. Бажана) 確認日:2026-09-27 - Набрав чинності Український правопис2026年3月27日。編集上・技術上の修正の内容〔誤植・重複、例の追加、侵略国と同盟国に関係する名前の削除、規範を変えない言い回しの明確化〕、確立した規則に影響しないとの説明
発行:Міністерство культури України 確認日:2026-09-27 - Словник української мови у 20 томах, onlineВЗЯ́ТИ〔див. узя́ти〕、ВДА́ЧА
発行:Український мовно-інформаційний фонд НАН України 確認日:2026-09-27 - Словник української мови в 11 томах, т. 101979。УЗЯТИ (ВЗЯТИ)、УДАЧА
発行:АН УРСР, Інститут мовознавства ім. О. О. Потебні(Наукова думка) 確認日:2026-09-27
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