本文へ移動

ウクライナの人・文化・社会・未来を、日本と世界につなぐ

Ukrainavi Ukrainavi

人と暮らし/実用ガイド

авторка と директорка。ウクライナ語の職業名の女性形

ウクライナ語では автор(著者)から авторка、директор から директорка と、接尾辞を付けて女性を表す名詞を作ります。2019年の正書法で初めて規定になり、2026年の国家語の標準 §32 に引き継がれました。四つの接尾辞、1993年版との違い、辞書と百科事典の書き方を表にまとめました。

イメージ画像

オリュカのひとこと

ウクライナ語には、女性を表す職業名の作り方があるそうです。最初の見出しで確かめられます。

ウクライナ語で「作家」「著者」は автор です。女性の著者を指すときは、авторка という語があります。директор(校長、所長)に対する директорка、студент(学生)に対する студентка も同じ作りです。男性を表す名詞に接尾辞を付けて、女性を表す名詞を作ります。

以下、この作り方を、2026年3月28日に国家語の標準として効力を持った『Український правопис』(以下、2026年の標準)、その元になった2019年版と1993年の第4版の正書法、ウクライナ国立科学アカデミーの二つの研究所が編んだ『Українська мова. Енциклопедія』(ウクライナ語百科事典、第2版2004年。以下、百科事典)、アカデミーの辞書にもとづいてまとめます。確認は2026年9月時点です。

正書法が挙げる四つの接尾辞

2026年の標準の §32 は、名詞の接尾辞の書き方を定めた条です。その第4項は、「-к-(-а)、-иц-(-я)、-ин-(-я)、-ес-(-а) などの接尾辞を使って、男性名詞から女性を表す名詞を作る」と書き、接尾辞ごとに次のように説明しています。

接尾辞どんな語に付けるか(標準の書き方)標準の例
-к-(-а)いちばんよく使う。さまざまな型の語幹に付けられるためавторка(著者)、дизайнерка(デザイナー)、директорка(校長、所長)、редакторка(編集者)、співачка(歌手)、студентка(学生)、фігуристка(フィギュアスケートの選手)
-иц-(-я)-ник で終わる語幹と、-ень で終わる語に付けるверстальниця(組版の担当者)、набірниця(植字工)、порадниця(助言者)、учениця(生徒)
-ин-(-я)-ець で終わる語幹と、子音で終わる語幹に付けるкравчиня(仕立て職人)、плавчиня(水泳の選手)、продавчиня(販売員)、бойкиня(ボイコの女性)、майстриня(職人、名人)、лемкиня(レムコの女性)
-ес-(-а)ウクライナ語ではあまり使わないпатронеса(後援者)、поетеса(詩人)
『Український правопис』国家語の標準(2026年)§32 第4項から作成。日本語訳は編集部による。

例には職業の名前が多く並んでいますが、бойкиня、лемкиня のように、職業ではなく集団の名前も入っています。条の書き方も「職業名」に限らず「女性を表す名詞」です。ボイコ、レムコについてはカルパティアの山のウクライナ人、フツル・ボイコ・レムコで扱っています。

同じ §32 は、女性の父称を作る -івн-(-а)/-ївн-(-а)(Борисівна、Сергіївна など)も第12項で定めています。父称の使い方はウクライナの人の名前にまとめています。

1993年版には無かった規定

この第4項は、1993年の第4版の正書法にはありませんでした。1993年版で名詞の接尾辞を扱う §22 は、-ик・-ник、-ив-(о)、-альник、-ень・-ець・-ість・-тель、-инн-(я)、指小の -ечок、姓の -енк-(о)、父称の -ович・-івн-(а) などを13の項で定めていますが、女性を表す名詞の作り方は項目に入っていません。

2019年版は、同じ内容を §32 第4項として加えました。2019年版の新しい規定の一覧は2019年の正書法は、7年後に「国家語の標準」になったにあり、その表の1行が、この §32 です。

  1. オリュカ

    新しい標準では、例に挙がる語がどう変わったのかな。

  2. タブリ

    前の版と新しい標準の違いは、この見出しの下の表で見比べられるよ。

  3. スウネ

    例が外れた理由が書かれていないことは、表の後の段落にあるね。

2019年版と2026年の標準で変わった例

2026年の標準の §32 第4項は、2019年版の文をほぼそのまま引き継いでいますが、例の語と言い回しが少し変わっています。

2019年版 §32 第4項2026年の標準 §32 第4項
-иц-(-я) の説明「主に」(насамперед)-ник で終わる語幹に付ける「主に」の語が無い
-ин-(-я) の例майстриня、філологиня(言語学者)、бойкиня、лемкинябойкиня、майстриня、лемкиня(філологиня が無い)
-ес-(-а) の説明と例「あまり使わない」。дияконеса(女性の輔祭、ディアコニッサ)、патронеса、поетеса「ウクライナ語ではあまり使わない」。патронеса、поетеса(дияконеса が無い)
『Український правопис』2019年版と国家語の標準(2026年)の §32 第4項の本文を突き合わせて作成。

文化省は2026年3月27日の発表で、標準の本文には誤植の訂正、例の追加、言い回しの明確化などの編集上の修正を加えたが、定着した規則には影響しない、と説明しています。філологиня と дияконеса が例から外れた理由は、標準の本文にも文化省の発表にも書かれていません。

辞書には、もっと前から載っていた

正書法に規定ができたのは2019年ですが、語そのものはそれより前から辞書に載っています。アカデミーの11巻本の辞書(第1巻、1970年)は АВТОРКА を見出しに立て、「автор の女性形」と説明しています。いまの20巻本の辞書にも、次のような見出しと用例があります。

見出し辞書の説明辞書が引く用例の書き手(一部)
АВТОРКАавтор の女性形レーシャ・ウクラインカ(11巻本・20巻本)、ユーリー・ヴィンニチュク(20巻本)
ДИРЕКТОРКАдиректор の女性形イヴァン・フランコ、ミハイロ・トムチャニー、О. Шугай
ПОЕТЕСАпоет の女性形レーシャ・ウクラインカ、パウロ・ザフレベーリヌィ
ЛІКАРКАлікар(医師)の女性形マルコ・ヴォウチョク、ヴォロディーミル・ヴィンニチェンコ ほか
МАЙСТРИНЯмайстер(職人、名人)の女性形イヴァン・コチェルハ、О. Ільченко ほか
『Словник української мови』11巻本 第1巻(1970年)と20巻本のオンライン版から作成(2026年9月確認)。人名のカナは編集部による。名を確かめられなかった人は、辞書の表記(イニシャルと姓)のまま示した。

用例の中には、女性形そのものを話題にしたものもあります。20巻本の辞書が ПОЕТЕСА の項に引くレーシャ・ウクラインカの文です。

Наші критики .. ставлять в одну лінію і поетів і поетес, і літераторів і літераток; не знаю, як хто, а я не раз казала їм за се спасибі(私たちの批評家は…詩人も女性詩人も、文筆家も女性文筆家も同じ列に並べる。ほかの人がどうかは知らないが、私は何度もそのことに礼を言ってきた)

『Словник української мови』20巻本「ПОЕТЕ́СА」の用例(レーシャ・ウクラインカ)。日本語訳は編集部による

辞書の見出しの読み方はウクライナ語の辞書の引き方で扱っています。

百科事典の説明:「моція」

男性名詞から女性を表す名詞を作ることを、百科事典は「Моція」(モーツィヤ)という項で説明しています。この項は、接尾辞を型に分けて、よく新しい語を作るものとそうでないものを整理しています。

  • よく新しい語を作る型:-к-(а)(блондинка、школярка、француженка など)と -иц-(я)(дослідниця=研究者、робітниця=労働者 など)。職業、民族、住む土地で人を表すことが多い(лікарка、українка、киянка=キーウの女性、волинянка=ヴォリーニの女性)
  • あまり作らない型:-их-(а)、-ш-(а) は「その人の妻」を表す(бондариха=桶職人の妻、генеральша=将軍の妻、фермерша=農場主の妻)。-ш-(а) は俗な言い方で使う
  • もう新しい語を作らない型:-ин-(я)(графиня=伯爵夫人、княгиня=公妃)、-ов-(а)(королева=女王)など
  • 外来の接尾辞もあまり使われない:-ес-(а)(баронеса、поетеса、стюардеса)、-ис-(а)(актриса=女優、директриса=女性の校長)

百科事典では -ин-(я) を「もう新しい語を作らない型」に入れていますが、2019年版と2026年の標準は、майстриня、продавчиня などの例を挙げて、-ин-(я) を使える接尾辞の一つにしています。директор の女性形も、百科事典は -ис-(а) の директриса を挙げ、2026年の標準は -к-(а) の директорка を挙げています。

  1. オリュカ

    女性を指すのに、男性の形のままで言うこともあるのかな。

  2. ヨリクネ

    名詞は男性形のままで、動詞などが女性形になる言い方が、この見出しの下にあるよ。

  3. スウネ

    どちらを選ぶかが標準の条だけでは決まらないことも、この見出しの下の終わりにあるね。

女性形を使わない言い方:「директор прийшла」

女性を指すのに、男性名詞をそのまま使う言い方もあります。百科事典の「Моція」の項は、職業や地位で女性を呼ぶとき、公用文の文体の影響で академік、декан(学部長)、директор、генетик(遺伝学者)、оптик(眼鏡技師)のような男性名詞を使うことがある、と書いています。その結果、директор прийшла(所長〔女性〕が来た)、наша директор(私たちの〔女性の〕所長)のように、名詞は男性形のまま、動詞の過去形や形容詞・代名詞だけが女性形になる言い方が増えた、とも書いています。

同じ項は続けて、それでもウクライナ語に特徴的な、接尾辞で女性形を作る傾向がますます強まっているとして、авторка、аспірантка(大学院生)、викладачка(講師)、діячка(活動家)、редакторка、лікарка、депутатка(議員)を挙げています。「Рід」(文法上の性)の項も、人の性別を区別する方法として、автор — авторка のように接尾辞で作る方法と、біолог працювала(生物学者〔女性〕が働いていた)のように、組み合わせる語の形で示す方法を並べています。

2026年の標準の §32 第4項は、女性形の作り方を定めた規定です。男性名詞で女性を指す言い方を誤りとする文は、この条にはありません。どちらの言い方を選ぶかは、標準の §32 だけでは決まりません。

オリュカのひとこと

この書き方は、辞書や正書法にどう載ってきたのでしょう。この年表で確かめられます。

女性形の歩み

年出来事典拠
1970年アカデミーの11巻本の辞書の第1巻が АВТОРКА を見出しに立てる(用例はレーシャ・ウクラインカほか)11巻本 第1巻
1993年正書法の第4版。名詞の接尾辞の条(§22)に、女性を表す名詞の作り方の項目は無い1993年版 §22
2004年百科事典の第2版。「Моція」の項が、男性名詞で女性を指す言い方と、接尾辞で女性形を作る傾向の両方を書く百科事典「Моція」
2019年正書法の新しい版。§32 第4項に、-к-(-а)、-иц-(-я)、-ин-(-я)、-ес-(-а) で女性を表す名詞を作る規定が入る2019年版 §32
2026年国家語の標準。§32 第4項を引き継ぎ、例の一部と言い回しを変える2026年の標準 §32
各資料の本文から作成。20巻本の辞書のオンライン版は、2026年9月時点で第1〜16巻(А から РЯХТЛИВИЙ まで)を収める。

指小の意味の -к- を持つ語(ручка など)は、女性形の -к-(-а) とは別の働きです。指小形についてはウクライナ語の指小形で扱っています。

出典と記事の記録出典 8件 · AIの利用 · 運営体制

出典・参考資料

  1. 『Український правопис』国家語の標準2026年版。§32「Іменникові суфікси …」第4項・第12項
    発行:Національна комісія зі стандартів державної мови 確認日:2026-09-27
  2. Рішення № 47 «Про затвердження Українського правопису як стандарту державної мови»2026年3月1日
    発行:Національна комісія зі стандартів державної мови 確認日:2026-09-27
  3. Набрав чинності Український правопис2026年3月27日。編集上・技術上の修正の内容と、定着した規則に影響しないとの説明
    発行:Міністерство культури України 確認日:2026-09-27
  4. 『Український правопис』2019年版§32「-ИК, -НИК / -ІВНИК, -ЛЬНИК」第4項
    発行:Українська національна комісія з питань правопису(Український центр оцінювання якості освіти のサイトに掲載された版) 確認日:2026-09-27
  5. 『Український правопис』4-те видання, виправлене й доповнене1993。§22「Іменникові суфікси」第1〜13項
    発行:Академія наук України, Інститут мовознавства ім. О. О. Потебні, Інститут української мови(Наукова думка) 確認日:2026-09-27
  6. Українська мова. Енциклопедія, 2-ге вид.2004。「Моція」、「Рід」
    発行:НАН України, Інститут мовознавства ім. О. О. Потебні, Інститут української мови(Вид-во «Українська енциклопедія» ім. М. П. Бажана) 確認日:2026-09-27
  7. Словник української мови в 11 томах, т. 11970。АВТОРКА
    発行:АН УРСР, Інститут мовознавства ім. О. О. Потебні(Наукова думка) 確認日:2026-09-27
  8. Словник української мови у 20 томах, onlineА́ВТОРКА、ДИРЕ́КТОРКА、ДИЗА́ЙНЕРКА、ПОЕТЕ́СА、ЛІ́КАРКА、МАЙСТРИ́НЯ
    発行:Український мовно-інформаційний фонд НАН України 確認日:2026-09-27

記載内容に誤りを見つけた場合は、訂正のご連絡からお知らせください。確認のうえ、訂正した内容と経緯を記事に記載します。