15人のうち10人が去った評議会から、ウクライナの司法改革は始まった
EUがウクライナに加盟候補国の地位を与えたとき、条件の最初の二つは司法でした。裁判官を任命する評議会、裁判官を選ぶ委員会、憲法裁判所の判事の選び方を、国際的な専門家の関与のもとで作り直すことです。2021年の法律から、欧州委員会の2025年の報告までの経過を追います。
オリュカのひとこと
裁判官を「任命する」機関と「選ぶ」機関は、役割がどう違うのでしょう。最初の見出しで二つを分けて見てみましょう。
2022年6月17日、欧州委員会はウクライナを加盟候補国とするよう勧める意見書を出しました。そこには「次の措置がとられることを前提に」として七つの措置が並び、最初の二つが司法に関するものでした。
- 憲法裁判所の裁判官の選考手続きを定める法律を制定し、実施する。誠実性と専門能力の評価にもとづく事前選考を含め、ヴェネツィア委員会(欧州評議会の法律諮問機関)の勧告に沿わせる
- 倫理評議会による司法高等評議会の委員候補の誠実性審査を終え、裁判官高等資格委員会を設けるための候補者の選考を終える
七つの措置の全体と加盟交渉の経過はEU加盟を申請して4年半、ウクライナの交渉はどこまで進んだかで扱っています。
裁判官を任命する機関と、選ぶ機関
ウクライナの裁判官の人事には、二つの機関が関わります。
司法高等評議会(Вища рада правосуддя)は、裁判官の任命と解任、懲戒を扱う中心的な機関です。法律上の定員は21人で、裁判官大会が10人を選び、大統領、最高会議、弁護士大会、検察官の全国会議、法学系の大学・研究機関の大会がそれぞれ2人ずつを選びます。最高裁判所長官も職務上の委員です。
裁判官高等資格委員会(Вища кваліфікаційна комісія суддів)は、裁判官の選考と、現職の裁判官の資格の評価を担います。定員は16人で、うち8人は裁判官または退官した裁判官から任命されます。
欧州委員会の2023年の報告は、改革が必要になった理由として、司法が行政・立法から十分に独立していないこと、司法への信頼の低さ、汚職の多さ、特定の利害を持つ勢力の裁判への強い影響を挙げています。
2021年7月の二つの法律
改革は2021年7月に、二つの法律で始まりました。裁判官高等資格委員会の活動を再開させる法律(7月13日、第1629-IX号)と、司法高等評議会の委員の選び方を変える法律(7月14日、第1635-IX号)です。
仕組みの中心は、委員を審査する機関に、国際機関が推薦する専門家を入れたことです。司法高等評議会の委員とその候補の誠実性を審査する倫理評議会は、最初の構成を「裁判官3人と、国際機関・外国の機関が推薦する3人」と定められました。裁判官高等資格委員会の委員を選ぶ選考委員会も、国内の専門家3人と国際的な専門家3人で構成されました。欧州委員会は、国際的な専門家に「一時的だが決定的な役割」を与えた仕組みだと評価しています。
評議会が止まり、委員会が作り直された
審査が始まると、司法高等評議会には大きな変化が起きました。欧州委員会の2023年の報告によれば、改革が始まった時点で評議会の委員は15人でしたが、そのうち10人が職を離れ、残ったのは最高裁判所長官を含む5人でした。評議会は2022年2月から2023年1月まで、定足数を欠いて機能できませんでした。
倫理評議会は2022年5月、在任していた委員4人の審査を終え、1人を基準に合わないと判断しました。そのあと新しい候補の審査に移り、2023年1月までに審査を通った11人が新たに選ばれて、評議会は15人の定足数に達しました。2023年6月までに委員は17人になっています。
裁判官高等資格委員会は、2019年秋から活動していませんでした。選考委員会は候補者301人の誠実性と専門能力を審査し、64人の面接を経て32人に絞りました。2023年6月、立て直された司法高等評議会がこの中から16人を委員に任命し、委員会は活動を再開しました。欧州委員会は2023年の報告で、この二つ目の条件を「完了」と判定しています。
憲法裁判所の判事の選び方
憲法裁判所の判事は18人で、大統領、最高会議、裁判官大会がそれぞれ6人を任命します。任期は9年で、再任はできません。一つ目の条件は、この任命の前に、候補者の道徳的な資質と法律家としての能力を審査する仕組みを入れることでした。
最高会議は2022年12月13日、審査を行う「専門家諮問グループ」を設ける法律(第2846-IX号)を可決しました。ヴェネツィア委員会はその年の11月23日に緊急意見を出し、12月16〜17日の総会で意見を採択しています。そこでは、国際的な専門家の関与に期限を設けること、判断がつかないときの解決策として、国際的な関与が続くあいだは委員を7人に増やし、7人目を国際枠にすることなどを勧めました。
その後、最高会議は2023年7月27日に法律を改めました(第3277-IX号)。ヴェネツィア委員会は2023年6月の追加の意見で、7人目の委員が加わらなかったことを「遺憾」としつつ、国際枠の委員に決定票を持たせたことなどを大きな改善と評価しました。
いまの法律では、専門家諮問グループは6人です。大統領、最高会議、裁判官大会が1人ずつ、ヴェネツィア委員会の推薦で1人、国際機関の推薦で2人を内閣が任命します。この形は法律の施行から6年間の経過措置で、そのあいだ、決定には4票以上が必要で、そのうち2票以上は国際枠の委員の票でなければなりません。可否が同数のまま再投票でも決まらないときは、国際枠の2人を含む3人の票が決め手になります。2023年10月に内閣が国際枠の委員を任命し、グループは活動を始めました。欧州委員会は2023年の報告で、一つ目の条件も「完了」と判定しています。
| 年月 | 出来事 |
|---|---|
| 2021年7月 | 裁判官高等資格委員会の再開と、司法高等評議会の委員の選び方を変える法律 |
| 2022年2月〜2023年1月 | 司法高等評議会が定足数を欠く |
| 2022年6月17日 | 欧州委員会の意見書。候補国の条件に司法の二つの措置 |
| 2022年12月13日 | 憲法裁判所の判事の事前選考を定める法律(第2846-IX号) |
| 2023年6月 | 司法高等評議会が裁判官高等資格委員会の委員16人を任命 |
| 2023年7月27日 | 事前選考の法律の改正(第3277-IX号) |
| 2023年10月 | 専門家諮問グループが活動を始める |
| 2026年6月15日 | 「基本」クラスター(司法と基本権の章を含む)の交渉開始 |
オリュカのひとこと
欧州委員会は、どこを前進と見て、どこに課題を残したのでしょう。報告の指摘を順に読んでみましょう。
2025年の報告が指摘したこと
条件は「完了」と判定されましたが、欧州委員会の2025年11月の報告は、仕組みがまだ安定していないことを書いています。
- 憲法裁判所は2025年1月、判事の任期満了が重なって、定足数の12人を欠いた。2月に専門家諮問グループが5つの空席に10人の候補を推薦し、大統領が6月と9月に計2人を任命して定足数は戻った。しかし最高会議は10月、自らの枠の2人を任命できなかった
- 司法高等評議会は2025年春から、21人中15人という最低限の定足数で動いていた。10月に大統領が審査済みの2人を任命した。弁護士大会は戒厳令を理由に、自らの枠2人の選考を始めていない
- 裁判官高等資格委員会の委員を選ぶ選考委員会は、国際的な専門家を含む任期が2025年6月に切れた。欧州委員会は、改革されていない国内の機関の代表だけで次の選考委員会をつくるのをやめ、国際的な専門家の関与を延ばすよう求めている
- 国際的な専門家が加わる選考や審査全体に反対する動きが強まっている(憲法裁判所への申し立てや法案)ことに「深刻な懸念」を示した
- 現職の裁判官の資格評価は2025年9月までに2,549人が終え、1,413人が残る。裁判官の空席は2025年8月時点で2,198
交渉は「基本」から
2026年6月15日、EUとウクライナは最初の交渉分野として「基本(fundamentals)」クラスターを開きました。司法と基本権を扱う第23章はここに含まれます。欧州委員会の発表によれば、法の支配の章には中間の基準が設けられ、それを満たさなければ章を仮に閉じる段階に進めません。この分野は最初に開き、最後に閉じる分野で、交渉全体の速さを決めるとされています。
候補国の地位を得るための条件だった司法の改革は、交渉の中で、仕組みが実際に回り続けるかどうかを問われる段階に入っています。汚職対策の機関の独立をめぐる経緯はウクライナの反汚職機関と、独立が揺らいだ2025年7月の9日間を参照してください。
出典・参考資料
- Commission Opinion on Ukraine's application for membership of the European Union, COM(2022) 407 final(2022年6月17日。候補国の地位の前提となる七つの措置のうち司法の二つ、憲法裁判所の改革の必要)
発行:European Commission 確認日:2026-09-24 - Ukraine 2023 Report, SWD(2023) 699 final(2023年11月8日。七つの措置の評価、改革の理由、司法高等評議会の15人中10人の辞任と定足数、倫理評議会の審査、裁判官高等資格委員会の選考(301人・64人・32人・16人)、専門家諮問グループの発足)
発行:European Commission 確認日:2026-09-24 - Ukraine 2025 Report, SWD(2025) 759 final(2025年11月4日。憲法裁判所の定足数と任命、司法高等評議会の構成、選考委員会の任期、国際的な関与への反対、資格評価と空席の数)
発行:European Commission 確認日:2026-09-24 - EU and Ukraine open first accession negotiations cluster(2026年6月15日。「基本」クラスターと第23章、中間の基準)
発行:European Commission(DG Enlargement and Eastern Neighbourhood) 確認日:2026-09-24 - Закон України «Про Вищу раду правосуддя» № 1798-VIII(第5条の構成、第9-1条と経過規定第23-1項の倫理評議会の構成、2026年9月23日時点の版)
発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Закон України «Про судоустрій і статус суддів» № 1402-VIII(裁判官高等資格委員会の定員16人・うち裁判官8人)
発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Закони України № 1629-IX(2021年7月13日)・№ 1635-IX(2021年7月14日)(題名・日付)
発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Закон України «Про Конституційний Суд України» № 2136-VIII(第9条の定員と任命、第10条の定足数、第10-2条、第16条の任期9年、経過規定第4・5・20項の専門家諮問グループ)
発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Закони України № 2846-IX(2022年12月13日、法案第7662号)・№ 3277-IX(2023年7月27日、法案第9322号)(題名・日付・法案番号)
発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Opinion on the draft law on amending some legislative acts of Ukraine regarding improving procedure for selecting candidate judges of the Constitutional Court of Ukraine on a competitive basis, CDL-AD(2022)054(2022年12月16〜17日採択、11月23日の緊急意見、結論第72項)
発行:Venice Commission, Council of Europe 確認日:2026-09-24 - Follow-up opinion (Draft Law No. 9322 of 25 May 2023), CDL-AD(2023)022(2023年6月9〜10日採択、結論第40項)
発行:Venice Commission, Council of Europe 確認日:2026-09-24
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