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文化・歴史/解説

歌い出す人と高い声がいないと歌えない、ドニプロペトロウシク州のコサックの歌

一人が歌い出し、もう一人が高い声で旋律を導き、残りの人が中と低い声で支える。ドニプロペトロウシク州の村の合唱団が歌うコサックの歌は、2016年にユネスコの緊急保護一覧に載りました。担い手の年齢、声の役割、緊急とされた理由、2020年の報告の中身を、申請書と決定から読みます。

画像:Ukrainavi

オリュカのひとこと

歌い出す人と高い声の人、どちらかが欠けると歌えないのはなぜでしょう。声の役割を申請書の説明でたどれます。

最初の一人が歌詞を歌い出し、二人目が高い声で旋律を引き取り、残りの人が中の声と低い声で支える。男性がいないときは、女性が声を低く太くして男性の声部を歌う。ウクライナのドニプロペトロウシク州の村で、年配の歌い手たちが受け継いできた「コサックの歌」は、2016年、ユネスコの「緊急に保護する必要がある無形文化遺産の一覧」(緊急保護一覧)に記載されました。

以下は、ウクライナがユネスコに出した申請書(2015年3月3日署名)、ユネスコの政府間委員会の決定、2020年の定期報告、ウクライナ文化省の国内目録をもとにまとめたものです。担い手の人数や年齢は、それぞれの文書が書かれた時点のものです。

2016年、緊急保護一覧へ

2016年11月28日から12月2日までエチオピアのアディスアベバで開かれた無形文化遺産保護条約の第11回政府間委員会は、決定11.COM 10.a.5で「ドニプロペトロウシク州のコサックの歌」を緊急保護一覧に記載しました。同じ州のペトリキウカ装飾画(猫の毛の筆で下絵なしに描く、ペトリキウカの花の装飾画)が載る「代表一覧」とは別の一覧で、存続が危ぶまれ、すぐに保護が必要な要素を載せるものです。ボルシチの料理文化も、この一覧に載っています(ウクライナの食卓──ボルシチのユネスコ記載と、地域で変わる料理)。

委員会は記載の理由として、歌い手たちが土地の悲劇的で英雄的な歴史を語り、地域の人々に連続性とアイデンティティの感覚を与えていることを挙げました。一方で、活動している合唱団が三つしか残っていないこと、担い手が大きく減り、世代から世代への受け渡しがほとんど止まっていることを、存続が脅かされている理由としています。

国の目録では「005」

ウクライナ国内では、文化省の2015年1月21日の命令第16号が、2012年の命令第1521号でつくられた目録に「ドニプロペトロウシク州のコサックの歌」(Козацькі пісні Дніпропетровщини)を加えました。申請書に添付された命令の写しで確認できます。文化省が公開している「ウクライナの無形文化遺産の国家一覧」では登録番号が「005.нкс」で、この一覧には2018年2月12日の命令第105号で載っています。一覧は分野を「口承の伝統と表現」と「芸能」とし、保護にあたる機関に州の行政府と州の民衆創作センターを挙げています。

どんな歌か

申請書によれば、コサックの歌は、ウクライナのコサックが盛んに活動した17〜18世紀に、コサックのあいだや、コサックが開いた集落で生まれた歌で、歌の中に「コサック」という言葉が出てくることが、担い手たちにとってこの歌を見分ける目印です。申請書は、いまのドニプロペトロウシク州の範囲にはコサックの開いた集落が数百あり、ザポロージャ・シーチ(コサックの本拠)もあったと書いています(シーチの歴史はシーチが築かれてから壊されるまでの220年、日本は戦国から江戸へ)。

申請書は、この歌が暴力や敵への憎しみをたたえるものではないとし、戦いの歌も、肉親を失った人の悲しみなど戦争の悲劇を語り、歌の多くはコサックと娘の恋を歌うと説明しています。テンポがゆっくりで、音節のあいだに節回しが入るため一節が長く、歌い手たちはこれを「長く引く歌」とも呼んでいるといいます。

歌は聴衆に向けたものではなく、自分たちのために歌われます。申請書は、歌うときの歌い手は「自分の中に引きこもり」、思い出にふけるような目になると書いています。

声の役割

申請書によれば、合唱団は二人の中心になる歌い手を軸にしています。

  • 最初の歌い手:すべての歌の歌詞を知っていて、一人で歌い出す
  • 二人目の歌い手:高い声で旋律をリードする。歌い手たちはこれを「ヴィヴォドィトィ」(виводити、導く)と呼ぶ
  • ほかの歌い手:気質や音楽の力に応じて、中の声と低い声に分かれる。ボフスラウ村では、高い声を「ヴィヴォドィトィ」、中の声を「ヴトルィトィ」(вторити)、低い声を「バスヴァトィ」(басувати)と呼ぶ

高い声には、明るく軽く、しかも胸から響く発声が要り、歌い出しには気質とよい音感が要る、と申請書は書いています。誰かが歌い出せない、あるいは高い声を歌えないと、その歌はもう歌えません。

オリュカのひとこと

三つの合唱団は、どんな顔ぶれで歌っているのでしょう。申請書の時点の人数と年齢を、表で確かめられます。

三つの村の合唱団

2014年、州議会の依頼で研究者が州内の13の居住地を調べ、9か所でこの歌を確認しました(州内の居住地は1,504)。申請書は、そのうち三つの合唱団を担い手として挙げています。

合唱団場所申請書の時点の顔ぶれ
クルィニツャ(Krynycya)ドニプロペトロウシク地区(当時)ピドホロドネ女性7人と男性2人。中心は75〜81歳の女性4人。52〜61歳の2人が歌を受け継いでいる。国や自治体の関わりなしに、退職後に集まった3人の友人が始めた
ボフスラヴォチカ(Boguslavochka)パウロフラード地区(当時)ボフスラウ村女性8人。中心は若いころから一緒に歌う78〜83歳の5人。2014年に40代の女性4人が加わった。1984年結成
ペルショツヴィト(Pershocvit)パウロフラード地区(当時)コチェレジキ村女性7人。中心は30年この合唱団で歌う84歳の3人。1984年結成。高い声を歌える唯一の人が近くの村に移り、コサックの歌はほとんど歌われなくなっている
ウクライナがユネスコに出した申請書(2015年3月3日署名)による。団の名前の英語つづりは申請書の表記。三つの合唱団はそれぞれ週に2回集まる。

記載への同意は、三つの団の24人(ペルショツヴィト7人、ボフスラヴォチカ8人、クルィニツャ9人)から書面で集められました。申請書によれば、担い手は80歳前後で、多くは小学校4年までの教育しか受けておらず、目が弱いため答えを口述した人が多かったものの、署名は全員が自分でしています。

なぜ「緊急」なのか

申請書は、存続を脅かすものを外と内の二つに分けています。

  • 外の理由:行政、報道、教育機関の関心が薄く、住民の多くがこの歌を知らない。合唱団の担い手の子どもたちは、どの団にも加わっていない。テレビやラジオで民謡がほとんど流れないため、若い人は民謡の発声を聞き慣れず、ポップスの影響で「おかしくて魅力がない」と感じている
  • 内の理由:歌は合唱でしか成り立たず、歌い出す人と高い声を歌う人がいなければ歌えない。高い声は生まれつきの声に加えて長い訓練が要る。州内にはこの歌い方を教える学校がなく、学べるのはキーウの三つの教育機関だけ

委員会は記載にあたり、ウクライナに対して、共同体が保護計画の実施と今後の計画づくりに参加できるようにすること、担い手の人数が増えたかどうかで効果を測ることを求めました。また、この歌を国際的に紹介するときには、歌詞を広く話される言語に訳すよう勧めています。

2020年の報告

緊急保護一覧に載った要素について、国は4年ごとにユネスコに報告を出します。ウクライナが2020年12月15日に出した報告(2016〜2020年が対象)は、次のような取り組みを挙げています。

  • 2017〜2019年に州内で19回の現地調査を行い、560曲を超えるコサックの歌を、40時間を超える音声と映像で記録した。11を超える村で新しい担い手が見つかった
  • 州の地方自治体の連合会が、2017年から毎年、州の「コサックの歌」祭りを開いている
  • ドニプロペトロウシクのM・グリンカ音楽院(報告の時点の名称)に2016年から民俗と民族誌の研究室があり、学生と若い人向けに30回を超える講習と50回を超える講義を開いた
  • 担い手の録音をもとにした自習用の音源、歌集、ウェブサイトがつくられ、若い人の新しいグループがいくつも生まれた

同じ報告は、2020年の時点で、ペルショツヴィトでは2人が亡くなるか高齢で活動できなくなり7人が歌を身につけ、クルィニツャでは4人と7人、ボフスラヴォチカでは2人と6人だったと書いています。州議会は2020年3月27日、2021〜2024年の保護計画を承認しました。

州の名前について

ユネスコの記載名は「Dnipropetrovsk Region」で、この記事も憲法に書かれた州名に従っています。州の名前を「シチェスラウ州」(Січеславська)に変える憲法改正案(第9310-1号)は2018年11月23日に最高会議に登録され、2019年2月7日に憲法裁判所に送られました。憲法裁判所は2019年4月2日の意見(第2-в/2019号)で、案は憲法の改正の要件に反しないとしましたが、最高会議はこの案を採択していません。2026年9月時点の憲法第133条には「ドニプロペトロウシク州」の名が載っています。憲法第157条は、戒厳令のもとでは憲法を改正できないと定めています。州都の改称の経緯は987の町と村が名前を変えた、ウクライナの二つの地名法で扱っています。

出典と記事の記録出典 9件 · AIの利用 · 運営体制

出典・参考資料

  1. Cossack’s songs of Dnipropetrovsk Region記載の年と一覧の種類、記載文、定期報告の提出日と次の期限、2020年の定期報告の本文
    発行:UNESCO Intangible Cultural Heritage(2026年1月8日時点のウェブ・アーカイブ) 確認日:2026-09-24
  2. Decision of the Intergovernmental Committee: 11.COM 10.A.5基準U.1〜U.5の理由、記載、委員会の要請と勧め、第11回・アディスアベバ
    発行:UNESCO Intangible Cultural Heritage(ウェブ・アーカイブ) 確認日:2026-09-24
  3. Nomination file No. 01194会期2016年11月28日〜12月2日、歌の説明、声の役割と呼び名、三つの合唱団の顔ぶれ、2014年の調査13か所・9か所・1,504、脅威、24人の同意、国内目録の記載、署名2015年3月3日
    発行:UNESCO Intangible Cultural Heritage(Ukraine) 確認日:2026-09-24
  4. ICH inventory: Order of the Ministry of Culture of Ukraine of 21.01.2015 No. 16 and inventory card目録への追加の命令の写し
    発行:UNESCO Intangible Cultural Heritage(Ukraine) 確認日:2026-09-24
  5. Національний перелік елементів нематеріальної культурної спадщини України第5番、005.нкс、分野、保護にあたる機関、2015年1月21日の命令第16号、2018年2月12日の命令第105号
    発行:Міністерство культури України 確認日:2026-09-24
  6. Конституція України第133条の州名、第157条の戒厳令下の改正禁止。現行の版
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24
  7. Проект Закону про внесення змін до статті 133 Конституції України (щодо перейменування Дніпропетровської області), № 9310-1登録2018年11月23日、憲法裁判所への送付2019年2月7日、審議の状態
    発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-24
  8. Постанова № 9310-1/П2682-VIII、2019年2月7日。憲法裁判所への送付
    発行:Верховна Рада України 確認日:2026-09-24
  9. Висновок Конституційного Суду України № 2-в/2019 у справі щодо перейменування Дніпропетровської області2019年4月2日、第157条・第158条の要件に反しない
    発行:Конституційний Суд України 確認日:2026-09-24

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