スィネヴィル湖、水位で4.45haから7.58haまで変わるカルパティアの湖
ウクライナ西部ザカルパッチャ州の山の中にあるスィネヴィル湖は、ウクライナのカルパティアで最大の湖とされます。ただし湖の面積は水位によって4.45haから7.58haまで変わり、ラムサール条約の登録地の「29ha」が湖の面積として紹介されることもあります。数字の出どころ、湖のでき方の説明、名前の伝説をまとめます。
オリュカのひとこと
カルパティアの山の中の湖は、どこにあるのでしょう。最初の見出しで確かめられます。
スィネヴィル湖(Синевир)は、ウクライナ西部ザカルパッチャ州の山の中にある湖です。湖面の標高は989m。同じ名前の国立自然公園の中にあり、2003年にはラムサール条約の湿地(国際的に重要な湿地)に登録されました。ウクライナのカルパティアでいちばん大きな湖として紹介されることの多い湖ですが、その「大きさ」は一つの数字では書けません。水位が季節によって上下し、湖の面積も深さも変わるからです。
湖の数字は資料ごとにどう書かれているのか。「最大の湖」は何と比べた言い方なのか。湖のでき方と名前の伝説とあわせて、2026年9月時点の資料から順に見ていきます。ウクライナの山と川の全体像はウクライナの国土と水の記事、国立自然公園という制度はウクライナの保護区の記事で扱っています。
ホルハヌィの山の中、テレブリャ川の上流
アルバータ大学カナダ・ウクライナ研究所(CIUS)の『Internet Encyclopedia of Ukraine』(IEU)は、スィネヴィル湖を、ザカルパッチャ州のホルハヌィ(ゴルガニ)山地の南部、国立自然公園「スィネヴィル」の中にある湖とし、水はテレブリャ川へ流れ出ると書いています。紙の百科事典の第5巻(1993年)に載った項目の再録です。
ラムサール条約の事務局に提出された湿地の情報票(2022年10月公表の更新版)によれば、湖のある場所はザカルパッチャ州の中でもイヴァーノ=フランキーウシク州との境に近く、いちばん近い集落はスィネヴィルシカ・ポリャーナ村です。湖には三つの山の沢が流れ込み、水は湖の西側の地下を通って出たあと、テレブリャ川に入ります。テレブリャ川はティサ川の支流で、ティサ川はドナウ川に注ぎます。
国立自然公園の公式サイトは、湖の水がスィネヴィルの沢(Синевирський потік)として、湖から西へ350m、湖をせき止めている土砂の高まりの頂より60m低いところから流れ出すと説明しています。情報票の2003年版は、この出口の高さを標高913mとしています。
オリュカ
湖を守る区域は、どんな順番でできてきたのかな。
タブリ
区域ができてから国立自然公園になるまでが、この見出しの下の表に年の順で並んでいるよ。
スウネ
公園の面積が資料によって違うことは、表のすぐ下にあるね。
湖を守る区域ができるまで
国立自然公園の公式サイトの沿革によれば、湖を守るための区域は、公園より先に1974年にできていました。そのあと周りの森や湿地にも保護区域が設けられ、1989年1月5日に国立自然公園になりました。IEUも公園の設立を1989年とし、ウクライナで3番目の国立公園だったと書いています。
| 年 | 出来事 | 典拠 |
|---|---|---|
| 1974年 | 湖を守るための国の景観保護区(ザカズニク、960ha)ができる | 国立自然公園の沿革 |
| 1983〜1984年 | 湖の半島に、伝説の二人をかたどった木の彫刻「スィニとヴィル」が作られる | 国立自然公園の湖のページ |
| 1989年1月5日 | 国立自然公園「スィネヴィル」ができる。面積は4万400ha | 国立自然公園の沿革、IEU |
| 2003年11月17日 | ラムサール条約の湿地に登録される。登録地の面積は29ha | ラムサール条約の湿地の情報票 |
| 2008年8月26日 | 全国の催し「ウクライナの七つの自然の不思議」で、選ばれた七つの一つとして表彰される | 催しの公式サイト(保存版)、国立自然公園の沿革 |
| 2019年4月11日 | 大統領令第133/2019号で、公園に377.8haの国有地が加えられる | 大統領令(最高会議の法令データベース) |
公園の中には、ヨーロッパのブナ林の世界遺産の構成資産も含まれています(ブナ林の世界遺産の記事)。公園は、世界遺産に入った原生のブナ林を2,865haとしています。
オリュカのひとこと
湖の大きさの数字は、資料によって違うようです。この見出しで見比べられます。
面積も深さも、水位で変わる
湖の大きさを最も詳しく書いているのは、ラムサール条約の湿地の情報票です。2003年4月の版と、2012〜2018年の資料をもとに2022年に公表された更新版は、どちらも同じ数字を挙げています。湖の面積は満ち方によって4.45haから7.58ha、平均の深さは8〜10m、いちばん深いところは19mから23.5m、水の量は35万〜46万m³です。
2022年の情報票は、水位が冬に下がり、春に上がり、夏と秋は雨の量によって変わるとし、水位の変わる幅を4.0〜4.5mと書いています。国立自然公園の公式サイトは、同じ変化を「4.0〜7.0m」と書き、水位は標高964mより下がらないこと、湖をせき止める土砂の高まりの頂は標高973mであることを添えています。湖の中ほどには水中の尾根があり、水位が下がると小さな島として水面に現れる、とも説明しています。
資料ごとの、湖の数字
| 資料 | 湖の面積 | いちばん深いところ | 湖面の標高 |
|---|---|---|---|
| IEU(紙の第5巻、1993年) | 約0.07km²(約7ha) | 24m | 989m |
| ラムサール条約の情報票(2003年4月) | 4.45〜7.58ha。概要の欄では満水時に約8ha | 19〜23.5m | 989m |
| ラムサール条約の情報票(2022年10月公表) | 4.45〜7.58ha。要約の欄では約8ha | 19〜23.5m | 989m |
| 国立自然公園の公式サイト(2026年9月) | 4.45〜7.58ha | 19〜23.5m(湖の紹介のページは23.5m) | 989m |
| フランクフルト動物学協会のウクライナの案内(2026年9月) | 29ha | 記載なし | 記載なし |
表の最後の「29ha」は、湖そのものの面積ではなく、ラムサール条約に登録された湿地の面積です。情報票によれば、登録地は湖に加えて、湖の南北は幅110mまで、西は500mまで、東は350mまでの岸辺と、湖から流れ出る沢の200mを含みます。登録地のうち18haは森だとされています。湖の面積と登録地の面積を取り違えると、湖が4倍ほどに大きく見えることになります。
オリュカ
「最大の湖」というとき、どこの湖と比べているのかな。
スウネ
資料ごとの言い方と比べている範囲が、この見出しの下に並べてあるよ。
ヨリクネ
ウクライナ全体の湖を見たくなったら、この見出しの下の終わりのリンク先へ寄り道できるよ。
「カルパティアで最大の湖」は、何を比べているのか
スィネヴィル湖は「ウクライナのカルパティアで最大の湖」と紹介されます。ただし、資料によって言い方が少しずつ違います。
- ラムサール条約の情報票(2003年):満水時の面積(約8ha)と水の量(約40万m³)で、ウクライナのカルパティアで最大の湖。同じ票は、湖を「比較的小さい」とも書いている
- ラムサール条約の情報票(2022年):「小さいが」ウクライナのカルパティアで最大の、自然にできた水域
- IEU(2008年執筆の国立自然公園の項):ウクライナのカルパティアで最大の湖
- 国立自然公園の公式サイト:ウクライナのカルパティアで最大の、自然にできた湖
- 『現代ウクライナ百科事典』(ЕСУ。第22巻、2020年の民俗祭の項):カルパティアで最大の高山湖
ЕСУ のほかは、比べている範囲を「ウクライナのカルパティア」と限っていて、カルパティア山脈全体(ルーマニアやスロバキアなどを含む)ではありません。ЕСУ は範囲を限らずに「カルパティアで最大の高山湖」と書いていますが、何と比べたかは書いていません。ウクライナ全体で見れば、北西部ポリーシャのスヴィチャージ湖は水面24.2km²、最大水深58.4mあります(ウクライナの国土と水の記事)。
1万年ほど前、谷がふさがれてできた湖
湖のでき方について、ラムサール条約の情報票(2003年・2022年)は、1万〜1万1,000年前に山の斜面が崩れ、オジルヌィイの沢(Озірний)の谷をふさいでできたと書いています。国立自然公園の公式サイトの「水域」のページも同じ年代を挙げ、クラスナ山の北の斜面で起きた大きな地すべりの岩が谷をせき止めたと説明しています。IEUも、川が地すべりでせき止められてできた湖としています。
地すべりか、地震か
同じ国立自然公園の公式サイトでも、湖の紹介のページは「1万年前、地震によって」湖ができたと書いています。地すべりのきっかけが地震だったという意味なのか、別の説明なのかは、ページの文面からは読み取れません。情報票と公園の「水域」のページは、地震には触れていません。
湖は少しずつ埋まってもいます。情報票によれば、湖に運び込まれる土砂は年に約50トン、流れ出るのは1トン以下で、98%が湖にたまります。湖の底には約20万m³の堆積物があり、厚さ11〜12mの泥が水面近くまで達した部分があるといいます。この部分の位置を、2003年の情報票は湖の西側、2022年の情報票は東側と書いていて、二つの版で食い違っています。
「スィニ」と「ヴィル」の伝説
湖の名前には伝説があります。国立自然公園の公式サイトは、羊飼いのヴィル(Вир)と、彼を愛した伯爵の娘スィニ(Синь)の話を紹介しています。羊飼いはこの場所で殺され、娘の涙が湖になった、という筋です。湖の半島には、この二人をかたどった高さ13m、重さ30トンを超える木の彫刻「スィニとヴィル」があり、1983〜1984年にザカルパッチャの彫刻家イヴァン・ブロウディとミハイロ・サヌィチが作ったと、公園は説明しています。
公園はまた、湖の中ほどの小島が青い目のひとみのように見えることから、湖が「海の目」(Морське око)とも呼ばれると書いています。伝説は公園が紹介している言い伝えで、いつごろ記録されたものかは、公園のページには書かれていません。ラムサール条約の情報票(2003年)も、湖を「伝説と結びつき、地元の人々に広く親しまれている」と書くだけで、伝説の中身には触れていません。
カルパティアの山の暮らしについてはフツル・ボイコ・レムコの記事、ウクライナでいちばん高い山についてはホヴェルラの記事にまとめています。
出典と記事の記録
出典・参考資料
- Synevyr Lake深さ24m、面積約0.07km²、標高989m、テレブリャ川、地すべりによるせき止め。紙の第5巻〈1993年〉の再録
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-27 - Synevyr National Nature Park1989年設立、ウクライナで3番目の国立公園、4万400ha、ウクライナのカルパティアで最大の湖、ラムサール条約湿地。2008年執筆
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(CIUS) 確認日:2026-09-27 - Ramsar Information Sheet, Site no. 1400 Lake Synevyr2022年10月20日公表の更新版。登録日2003年11月17日、登録地29ha、面積4.45〜7.58ha、最大水深19〜23.5m、水量35万〜46万m³、1万〜1万1,000年前の地すべり、水位変動4.0〜4.5m、堆積物、登録地の範囲
発行:Convention on Wetlands(Ramsar) 確認日:2026-09-27 - Information Sheet on Ramsar Wetlands: Lake Synevyr2003年4月7日付。満水時約8ha・約40万m³でウクライナのカルパティアで最大、出口の標高913m、堆積物
発行:Convention on Wetlands(Ramsar) 確認日:2026-09-27 - Про парк沿革:1974年の景観保護区960ha、1989年1月5日の国立自然公園化と4万400ha、2019年の拡大、2008年の「7 чудес України」
発行:Національний природний парк «Синевир» 確認日:2026-09-27 - Водойми地すべり、クラスナ山、オジルヌィイの沢、面積・深さ・水量、水位の変動4.0〜7.0m、964m・973m、水中の尾根と小島
発行:Національний природний парк «Синевир» 確認日:2026-09-27 - Озеро Синевир「地震により」1万年前、最大の自然湖、伝説のスィニとヴィル、彫刻〈1983〜1984年、ブロウディとサヌィチ〉、「海の目」
発行:Національний природний парк «Синевир» 確認日:2026-09-27 - Указ Президента України № 133/2019 «Про зміну меж території національного природного парку «Синевир»»2019年4月11日、377.8ha
発行:Верховна Рада України(法令データベース) 確認日:2026-09-27 - Національний природний парк «Синевир»面積4万2,704ha
発行:Департамент екології та природних ресурсів Закарпатської ОДА 確認日:2026-09-27 - Synevyr湖を「面積29ha」と紹介、公園の面積430km²
発行:Frankfurt Zoological Society Ukraine 確認日:2026-09-27 - На Синевир трембіти кличуть2001年に始まった民俗祭の項。スィネヴィル湖を「カルパティアで最大の高山湖」とする。第22巻、2020年。2023年8月最終改訂
発行:Енциклопедія Сучасної України(ウクライナ国立科学アカデミー百科事典研究所) 確認日:2026-09-28 - Церемонія нагородження 7 природних чудес України2008年8月26日の表彰。七つの一つにスィネヴィル湖
発行:催し「7 чудес України」の公式サイト(インターネット・アーカイブの保存版) 確認日:2026-09-28
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