11月9日から10月27日へ。ウクライナ語の日と、ラジオの書き取り
ウクライナ語の書き言葉と言葉を記念する日は、1997年の大統領令で年代記作者ネストルの記念日に置かれ、2023年に11月9日から10月27日へ移りました。休みの日ではありません。この日に合わせて2000年から続く、公共放送の「国民統一のラジオ書き取り」の仕組みと、2026年の状況をまとめました。
オリュカのひとこと
ウクライナ語の日は、もともと別の日に置かれていたようです。移った経緯を最初の見出しで確かめられます。
ウクライナには、ウクライナ語の書き言葉と話し言葉を記念する日があります。「ウクライナの書き言葉と言葉の日」(День української писемності та мови)です。1997年に大統領令で設けられ、2022年までは毎年11月9日でしたが、2023年から10月27日に移りました。
この日に合わせて、ウクライナの公共放送は毎年、全国で同じ文章を書き取る「国民統一のラジオ書き取り」(Радіодиктант національної єдності)を放送しています。作家が書いた文章を俳優が読み上げ、聞いた人が手で書き取って送る、という催しです。以下、大統領令の文面と、公共放送(Суспільне Мовлення)の発表をもとにまとめます。確認はいずれも2026年9月時点です。
1997年の大統領令と、年代記作者ネストルの日
記念日を定めたのは、1997年11月6日のクチマ大統領の大統領令第1241/97号です。本文は短く、市民団体の提案を支持し、ウクライナ社会をまとめるうえでウクライナ語が果たす大切な役割を考慮して、この日を設けるとしています。日付は「年代記作者ネストルの記念日」に置く、と書かれています。
ネストルは、キーウ・ペチェールシク修道院の修道士です。カナダ・アルバータ大学ウクライナ研究所の『Internet Encyclopedia of Ukraine』(IEU)によれば、1056年ごろに生まれ、1114年の10月27日ごろにキーウで亡くなりました。聖人の伝記を書き、それまでの年代記を書き継いで、1111〜1113年ごろに『過ぎし年月の物語』の版を仕上げたとされます。この本の成り立ちと写本については、『過ぎし年月の物語』は、1110年代のキーウで3度編まれたで扱っています。
記念日の名前の「писемність」は、文字で書くこと、書き言葉を指す語です。公共放送は2025年の案内で、ネストルを『過ぎし年月の物語』の作者とされ、古いウクライナの書き言葉の礎を築いた一人と見なされている人物だと紹介しています。
オリュカ
記念日そのものが、ずらされたのでしょうか。
スウネ
日付が変わった理由は、暦の違いだと、この見出しの下に書いてあるよ。
タブリ
空いた日に新しく置かれた記念日も、この見出しの下に出てくるよ。
2023年、11月9日から10月27日へ
2023年7月28日、ゼレンシキー大統領は大統領令第455/2023号で、いくつかの記念日の日付をまとめて改めました。その第1項が、1997年の大統領令の「11月9日」を「10月27日」に書き換えるものです。いまの大統領令第1241/97号は「毎年10月27日、年代記作者ネストルの記念日に祝う」と読めます。
記念日そのものが別の日になったのではなく、同じネストルの記念日を数える暦が変わったと考えると分かりやすくなります。IEU が伝える没年月日の「10月27日」は古い暦(ユリウス暦)の日付で、これをいま一般に使われている暦に直すと、13日後の11月9日になります。教会が2023年に新しい暦へ移ったことを受けて、記念日の日付も改められました。同じ大統領令で「ウクライナ国家の日」が7月28日から7月15日に移った経緯は、「ウクライナ国家の日」は、聖ヴォロディーミルの日に置かれたで詳しく書いています。
空いた11月9日には、同じ大統領令で別の記念日が置かれました。「全ウクライナ文化従事者と民衆芸術の匠の日」です。
休みの日ではない
「ウクライナの書き言葉と言葉の日」は、大統領令で決められた記念日で、労働法典第73条が並べる祝日には入っていません。10月27日も、以前の11月9日も、仕事や学校が休みになる日ではありません。祝日の一覧と、戒厳令のもとで第73条が適用されていないことは、独立記念日は8月24日。戒厳令で休みの規定が止まったウクライナの祝日にまとめています。
2000年に始まった、ラジオの書き取り
公共放送の説明によれば、ラジオの書き取りは2000年に国営ラジオ「ウクライナ・ラジオ」(Українське Радіо)のチームが始めました。目的は、国の内外にいるウクライナの人々とウクライナ語を知る人々を、言葉のまわりに一つにすることで、公共放送は「参加者の読み書きの力を試すためのものではない」とも書いています。いまは公共放送(ウクライナ国立公共放送会社)が運営し、ウクライナ・ラジオの番組として続いています。
日付は、記念日に合わせて決められます。公共放送の2023年の案内は、それまで毎年11月9日に書いていた書き取りを、大統領令に合わせてこの年から10月27日にしたと説明しています。ただし毎年その日ちょうどとは限りません。2024年は10月27日が日曜日で、書き取りは金曜日の10月25日に行われました。
2025年はどう行われたか
2025年の書き取りは、10月27日(月)の11時(キーウ時間)に始まりました。公共放送が事前に出した案内の内容は、次のとおりです。
- 聞く・見る:ウクライナ・ラジオとラジオ・クリトゥーラ(Радіо Культура)の電波、テレビのスースピーリネ・クリトゥーラ(Суспільне Культура)、ウクライナ・ラジオの YouTube チャンネル、アプリ「suspilne.radio」と政府のアプリ「Дія」で中継する
- 書く:場所は自由。一人でも、職場や図書館、書店に集まって書いてもよい
- 送る:紙の手紙(キーウのフレシチャーティク通り26番地あて、10月28日までの消印)か、書いた紙を撮影・スキャンした画像をメールで10月29日11時までに。文章が公開されたあとはメールを受け付けない
- 採点:送られた答案は専門の委員会が採点し、結果を後日発表する
2023年の案内は、書き取りはふつう30分ほどで終わるとしています。中継はインターネットでも見られるので、国外からも参加できます。公共放送によれば、2025年にメールで答案が届いた38か国の中には日本も入っていました。2025年10月27日のキーウの11時は、日本時間では同じ日の18時にあたります(ウクライナの夏時間は前日の10月26日に終わっていました)。
文章の題名が紹介されるのは、書き取りの当日です。全文は数日後に公共放送のサイトで公開され、参加者は自分の答案と照らし合わせることができます。
2022〜2025年の書き手と読み手
| 年 | 日付 | 文章(書き手) | 読み手 | 採点に送られた答案 |
|---|---|---|---|---|
| 2022年 | 11月9日 | 『Твій дім』(あなたの家)イリーナ・ツィリク | アーダ・ロホウツェワ | ― |
| 2023年 | 10月27日 | 『Дороги України』(ウクライナの道)カテルィーナ・カルィトコ | オレクシー・フナトコウシキー | ― |
| 2024年 | 10月25日 | 『Магія голосу』(声の魔法)オクサーナ・ザブシコ | パウロ・ヴィシェバーバ | 約1万通(30か国以上から) |
| 2025年 | 10月27日 | 『Треба жити!』(生きなければ)イェウヘーニヤ・クズネツォワ | ナターリヤ・スムスカ | 1万1,200通以上(38か国から) |
2024年の文章は、ウクライナ・ラジオの100周年にあてて書かれたものでした。2025年の採点では、6人が一つも間違えずに書き、公共放送はもっとも多かった誤りとして、ダッシュや感嘆符などの句読点の使い方を挙げています。
オリュカ
参加した人の数は、いつも同じ基準で数えられているのでしょうか。
スウネ
送られた答案の数と、視聴の数とでは、この見出しの下で基準が違うようだよ。
タブリ
年ごとの数字は、上の表と見出しの下の一覧で見比べられるよ。
何人が参加しているのか
参加した人の数は、数え方によって数字が変わります。公共放送が発表している数字は、主に「採点に送られた答案の数」と「放送やネットでの視聴の数」です。
- 2018年:採点に送られた答案は32,799通で、そのうち311人が間違いなしだった(公共放送の2025年の紹介記事)
- 2024年:公共放送は「公共放送のプラットフォームで50万人を超える人が参加した」とする記事と、「70万回を超える視聴を集めた」とする記事を出している
- 2025年:10月30日時点で、公共放送のプラットフォームでの視聴は約80万回。ウクライナ・ラジオの YouTube の中継の視聴は、11月27日時点で約47万回
視聴した人がみな書いたとは限らず、書いた人がみな答案を送ったとも限りません。「何十万人が書いた」という言い方を見かけたら、どの数字をもとにしているかを確かめる必要があります。
オリュカのひとこと
今年の書き取りは、いつ行われるのでしょう。分かることとまだ分からないことが、この見出しにあります。
2026年の書き取り
2026年9月24日時点で、公共放送は2026年の書き取りの日付、書き手、読み手をまだ発表していません。2025年は、9月29日に日付が、10月10日に書き手と読み手が発表されました。
準備はすでに始まっています。公共放送によれば、書き取りに備える番組「Радіодиктант без помилок」(間違いなしのラジオ書き取り)の第2シーズンが2026年7月15日から始まり、ウクライナ・ラジオで毎週月曜と水曜の7時15分に放送されています。また公共放送は2026年8月、「国民統一のラジオ書き取り2026」の答案を採点する業務の調達について、根拠となる文書を公表しています。
記念日は大統領令で10月27日と決まっていますが、書き取りを何日に行うかは公共放送が決めて発表します。参加したい人は、公共放送とウクライナ・ラジオの発表を確かめてください。日本でウクライナ語を学べる場所は、東京外大、阪大、東大で開かれているウクライナ語の講座と授業で紹介しています。
出典と記事の記録
出典・参考資料
- Указ Президента України «Про День української писемності та мови» № 1241/971997年11月6日。前文、日付をネストルの記念日に置くこと、2023年に「9 листопада」を「27 жовтня」に改めた注記、редакція від 29.07.2023
発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Указ Президента України «Про внесення змін до деяких указів Президента України» № 455/20232023年7月28日。第1項第1号:1241/97の日付の変更、第5号:11月9日を「Всеукраїнський день працівників культури та майстрів народного мистецтва」とすること、公表の記録
発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Кодекс законів про працю України第73条の祝日の一覧、戒厳令の期間は適用しない旨の注記
発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24 - Nestor the Chronicler生没年〔b ca 1056, d ca 27 October 1114 in Kyiv〕、キーウ・ペチェールシク修道院、『過ぎし年月の物語』の版を1111〜13年ごろに仕上げたこと
発行:Internet Encyclopedia of Ukraine(Canadian Institute of Ukrainian Studies) 確認日:2026-09-24 - Суспільне оголосило дату Радіодиктанту національної єдності2025年9月29日。2025年は10月27日、2000年にウクライナ・ラジオが始めたこと、2024年は50万人超・約1万通・30か国超
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