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社会を知る/解説

ロシア軍が支配していたダムが壊れた日、カホウカで起きたこと

2023年6月6日未明、2022年2月からロシア軍の支配下にあったドニプロ川のカホウカ水力発電所のダムが爆発で崩れました。下流では少なくとも80の集落が水につかり、上流では70万人を超える人の飲み水の源だった貯水池が干上がり始めました。国連とウクライナ政府は損害と損失を140億ドル近くと見積もっています。

2023年6月6日の午前3時ごろ、ドニプロ川下流にあるカホウカ水力発電所(Каховська ГЕС)のダムで爆発が起き、コンクリートの堤体が崩れました。国連環境計画(UNEP)の評価報告書はこう記録しています。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の報告によれば、ダムは2022年2月24日からロシア軍の支配下にありました。

ダムの決壊で、3〜4日のうちに18立方キロメートルの水が流れ出し、下流の少なくとも80の集落が水につかりました。上流では、南部の70万人を超える人の飲み水の源だったカホウカ貯水池が干上がり始めました。国連のグリフィス人道問題担当事務次長は同じ日の安全保障理事会で、これをロシアによるウクライナへの侵攻が始まって以来、民間のインフラが受けた被害のうち最も重大なものの一つだと述べました。

ロシア軍が支配していたダム

ダムと発電所はヘルソン州のノヴァ・カホウカにあり、IAEAなどは「ノヴァ・カホウカ・ダム」とも呼んでいます。UNEPの報告書によれば、ロシア軍は2022年2月にダムを支配下に置き、2014年から止まっていたクリミアへの送水を再開しました。2022年11月にはダムの水門が開けられ、貯水池の水位は過去30年で最も低い14メートルまで下がりました。2023年2月から水位は再び上がり、決壊の直前には過去30年で最も高い17.5メートルに達して、水がダムの上からあふれていました。

決壊の当日(ニューヨーク時間の午後)、国連安全保障理事会はウクライナの求めで緊急会合を開きました。ウクライナの国連大使は、ロシアが1年以上ダムと発電所全体を支配しており、外からの砲撃で壊すことは物理的にできない、ロシアの占領者が爆薬を仕掛けて爆破したと述べました。ロシアの国連大使は、ウクライナ側がダムを破壊したと主張しました。ダムを支配していたのはロシア軍だったことは、先に挙げた国連の報告書が記録しています。

ウクライナの検事総長室は2024年6月6日、ロシア軍の上級大将で「ドニエプル」部隊集団の元司令官に対し、戦争の法規と慣例の違反(刑法第438条第2項)の疑いを通知したと発表しました。捜査によれば、この人物は工兵部隊と第205独立自動車化狙撃旅団を指揮してダムの破壊を準備させ、6月6日の夜に爆破を実行させたとされています。疑いの通知は有罪の判断ではありません。

国連人権理事会が設けた「ウクライナに関する独立国際調査委員会」は、2023年10月の国連総会への報告で、ダム決壊の原因を調べていると書きました。このとき、ロシアは占領地域での被害についての委員会の質問に答えなかったとしています。

下流で起きたこと

国連とウクライナ政府が2023年10月にまとめた被害・ニーズ評価(PDNA)によれば、ヘルソン、ミコライウ、ドニプロペトロウシク、ザポリッジャの4州で620平方キロメートルが水につかり、10万人が直接の被害を受けました。3万7千棟を超える住宅、37の教育施設、推計11の医療施設が損傷し、100万人の飲み水と下水のサービスが止まりました。

ウクライナの検事総長室は6月7日、ドニプロ川下流の水位が最大12メートル上がり、ウクライナが奪還したヘルソン州の右岸側で26の集落が浸水区域に入ったと発表しました。この区域には4万2千人を超える人が住んでいました。占領下の左岸については、正確な情報がないとしています。

左岸の町オレシキなどでは、国連の人道支援が入れませんでした。国連人道問題調整事務所(OCHA)は、ロシアから安全の保証が得られていないと報告しています。

亡くなった人の数は、発表した主体と時点によって違います。

発表・記録した主体時点内容
ウクライナ内務省(OHCHRの報告に引用)2023年7月末までの報告ウクライナが奪還した地域で民間人34人が死亡(ヘルソン州32人、ミコライウ州2人)
ヘルソン州の占領当局(OHCHRの報告に引用)同上占領地域で民間人55人が死亡
OHCHR同上占領下のオレシキ、ホラ・プリスタンなどで亡くなった民間人15人の身元を確認
国連の独立国際調査委員会(ウクライナ政府の情報)2023年10月の報告33人が死亡、28人が負傷、40人を超える人が行方不明
ウクライナ検事総長室2024年6月6日少なくとも35人の民間人が死亡、24人が行方不明。ヘルソン州とミコライウ州の66の集落が浸水
それぞれの報告・発表による。占領下の左岸での被害は、国連が現地で確かめられていない。

上流で起きたこと

カホウカ貯水池は、決壊から3週間ほどで水の量の75%近くを失いました。OCHAによれば、ドニプロペトロウシク州のポクロウシケ、ニコポリ、マルハネツの各フロマーダ(基礎自治体)では、3週間近く水道が止まり、この州だけで推計21万人がすぐに飲み水を必要としていました。ミコライウ市に飲み水を送る唯一のポンプ場も、ヘルソン州で水につかりました。

貯水池の水は、南部の広い農地への灌漑にも使われていました。OCHAは、灌漑施設が大きな打撃を受け、ドニプロペトロウシク、ヘルソン、ザポリッジャの各州の農業に長く影響すると報告しています。

ザポリッジャ原子力発電所も、冷却水をこの貯水池から取っていました。国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は決壊当日、貯水池の水位が午前10時から午後8時までに83センチ下がって15.44メートルになったと説明しました。12.7メートルを下回ると、原発は貯水池から水をくみ上げられなくなります。それでも、原発の隣にある大きな冷却池は満水で、6基の原子炉がすべて停止しているため、数か月分の冷却水があり、短期的な原子力安全上の危険はないとしました。原発についてはウクライナの原子炉は15基、うち6基は占拠された原発にあるも参照してください。

自然と経済への被害

OHCHRが引用したPDNAによれば、洪水で1万1千ヘクタールを超える森林が失われ、ラムサール条約の登録湿地5か所と、欧州のエメラルド・ネットワークの12か所が被害を受けました。UNEPは、被害を受けた保護区33万3千ヘクタールが生み出す生態系サービスの価値を、最初の推計で85億ドル(2023年の実質ドル)としています。

浸水した地域には、化学工場、下水施設、墓地などがありました。OCHAは、流された地雷や爆発物が住民を危険にさらしていると報告しています。

PDNAは、ダムの破壊による直接の損害を27億9千万ドル、損失を110億ドル超、合わせて140億ドル近くと見積もりました。復旧と再建に必要な額は50億4千万ドルで、そのうち18億2千万ドルは2023〜2024年の短期に必要だとしています。戦争全体の被害と復興費用の見積もりは復興費用の見積もりは5回で3,485億ドルから5,877億ドルににまとめています。

「エコサイド」での捜査

ウクライナの検事総長室は、ダムの破壊を、エコサイド(刑法第441条)と戦争の法規と慣例の違反(第438条第1項)の疑いで捜査しています。捜査には保安庁(SBU)と国家警察の合同の捜査班があたり、検事総長室の環境専門の検察部門が指揮しています。

刑法第441条は、植物や動物の大規模な破壊、大気や水資源の汚染、そのほか生態系の破局を引き起こしうる行為を、8年から15年の自由刑で罰すると定めています。検事総長室は、ダムのように「危険な力を内蔵する施設」の破壊はジュネーブ条約第1追加議定書第56条に照らして戦争犯罪だという立場を示しています。

2024年6月の発表で検事総長室は、環境への影響を確かめるための鑑定が続いており、その結論を得たうえでエコサイドでの訴追を判断するとしています。検事総長は決壊当日の2023年6月6日、国際刑事裁判所(ICC)の検察官にもこの事件の情報を送りました。

全面侵攻からの出来事の流れはウクライナの独立とロシアによる侵略の年表 1991〜2026年で確かめられます。

出典・参考資料

  1. Rapid Environmental Assessment of Kakhovka Dam Breach, Ukraine, 2023(2022年2月からのロシア軍の支配、2022年11月の水門開放と水位14m、決壊直前17.5m、6月6日午前3時ごろの爆発、保護区33万3千ha・85億ドル)
    発行:UNEP 確認日:2026-09-24
  2. Report on the Human Rights Situation in Ukraine, 1 February – 31 July 2023(第36・37段落と注。2022年2月24日からの支配、18km³、少なくとも80の集落、身元確認15人、ウクライナ内務省34人・占領当局55人、PDNAの住宅3万7千棟・森林1万1千ha・ラムサール5・エメラルド12)
    発行:OHCHR 確認日:2026-09-24
  3. Kakhovka Dam destruction inflicted US$14 billion damage and loss on Ukraine: Government of Ukraine–UN report(2023年10月17日。620km²・10万人、損害27.9億ドル・損失110億ドル超・ニーズ50.4億ドル・短期18.2億ドル)
    発行:United Nations in Ukraine 確認日:2026-09-24
  4. Ukraine: Humanitarian Impact and Response Flash Update #2: Destruction of Kakhovka Dam(2023年6月7日。70万人の水源、ミコライウのポンプ場、灌漑、有害施設)
    発行:UN OCHA(ReliefWeb) 確認日:2026-09-24
  5. Ukraine: Humanitarian Impact and Response Flash Update #6: Destruction of Kakhovka Dam(2023年6月14日。オレシキなど左岸への支援にロシアの安全保証が得られていない)
    発行:UN OCHA(ReliefWeb) 確認日:2026-09-24
  6. Ukraine: Humanitarian Impact and Response Flash Update #9: Destruction of Kakhovka Dam(2023年6月27日。貯水池の75%近くの喪失、ドニプロペトロウシク州の21万人)
    発行:UN OCHA(ReliefWeb) 確認日:2026-09-24
  7. Update 161 – IAEA Director General Statement on Situation in Ukraine(2023年6月6日。水位15.44m、12.7mの限界、冷却池)
    発行:IAEA 確認日:2026-09-24
  8. Security Council, 9340th meeting, S/PV.9340(2023年6月6日。ウクライナとロシアの代表の発言)
    発行:United Nations 確認日:2026-09-24
  9. Report of the Independent International Commission of Inquiry on Ukraine, A/78/540(2023年10月19日。第47段落)
    発行:United Nations General Assembly 確認日:2026-09-24
  10. Руйнування дамби Каховської ГЕС: інформація станом на 7 червня(2023年6月7日。第441条・第438条第1項、水位12m、26集落・4万2千人、第1追加議定書第56条)
    発行:Офіс Генерального прокурора 確認日:2026-09-24
  11. Руйнування дамби Каховської ГЕС - повідомлено про підозру генерал-полковнику зс рф(2024年6月6日)
    発行:Офіс Генерального прокурора 確認日:2026-09-24
  12. Андрій Костін підписав документ, яким МКС надається вся необхідна інформація стосовно підриву окупантами дамби Каховської ГЕС(2023年6月6日)
    発行:Офіс Генерального прокурора 確認日:2026-09-24
  13. Кримінальний кодекс України № 2341-III(第438条・第441条、2026年9月24日時点の版)
    発行:Верховна Рада України(zakon.rada.gov.ua) 確認日:2026-09-24

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